続・軍務尚書の戯言

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郵政解散と小泉改革~日本の分水嶺~

2005-08-10 05:37:49 | 論文・考察
「小泉首相という人物~その歴史的意義~」の投稿後一か月を経て,参議院での郵政民営化法案否決を受けて小泉首相はその公約どおり衆議院を解散した。
小泉首相の理念や政治姿勢に関しては、半年前に現在の状況を冷静に分析・予言したこちらのコラムや、マーケットの馬車馬さんの的確な解説を参照していただくとして、本稿では今回の衆議院選挙の歴史的意義を検討したい。

50年後、今回の衆議院選挙に至る経緯とその結果は、良い意味であれ悪い意味であれ日本の分水嶺として人々に記憶され教科書に記載される事は間違いない。
今回の選挙を小泉首相は「郵政選挙」と命名したが,これは小泉首相の郵政大臣時代からの悲願であった郵政事業民営化を前面に押し出す事で争点を明確にし、選挙戦での構図を「改革派」「抵抗勢力」という形で単純化するための方策に過ぎない。
なぜなら今回の選挙の本質、すなわち今回の選挙で国民に問われているのは,第二次世界大戦後バブル崩壊という第二の敗戦を経てもなお脈々と継続してきた日本的社会運営~政・官・民の癒着、弱者救済に名を借りた税金の浪費、公共投資に絡む利権とそれをむさぼる特権階級の形成~を継続するのか,こうした既存の社会体制を放棄して日本人自らの手で新たな社会の構築を目指すのかという命題なのである。

今回の総選挙で自民党の敗北と小泉首相の退陣を国民が選択した場合,日本は郵政事業に代表される政・官・民の癒着と相互補助~政治家による利益誘導,官僚による許認可権の乱用と組織票の提供,民間企業の政府依存と資金提供~という日本人特有の「ムラ社会」を維持していくことになる。
離島に住むたかだか数千人の住民が週に何通受けとるか分からない手紙のために、日本国民の血税を湯水の様に投入して非効率的な郵政事業を継続し,特権階級と化した特定郵便局職員の権益を守りぬくということであり、「政治的判断」により地方の農村に誰も走らない高速道路や新幹線・莫大な赤字を生産し続ける美術館や記念館を建設し、地元の建設業者や役人などを国民の血税によって潤すことである。
80歳の老人にも,17歳の少女と同様に「命の価値は尊い」というお題目のもと,破綻しかけている医療保険制度をよそに莫大な医療費をかけ無意味な延命治療を施すことである。
究極的には,660兆を超える赤字国債をさらに増加させ、子供たちの世代に国家予算すべてを注ぎ込んでも返済に10年以上かかる莫大な借金を残すということだ。

こうした「ムラ社会」的社会体制が、確かに今日の日本の繁栄に役立った事は否定できない。
公共投資の名の下に採算を度外視して豊かな都市から貧しい地方へ莫大な資金を注入したからこそ,日本は最も成功した社会主義体制と揶揄される高度に均質化され階級間闘争が乏しく豊かな社会を形成する事に成功したのである。
どこに住んでいても美しく鋪装された道路を走る事ができる,郵便物を驚くほど安価で受け取る事ができる、国民皆保険制度によりどんな僻地でも世界最高水準の医療が低価格で享受できる社会は、世界中で日本だけであろう。
しかしこうした社会システムは、高度成長期に日本の人口と経済が持続的に成長するという根拠の無い前提のもと構築されたものであった。
バブル経済と持続的経済成長の神話崩壊と共に「ムラ社会的」システムの負の側面~非効率的な組織と官僚主義,公務員倫理の低下と癒着、予算主義による経費の浪費、特権階級への利益誘導~が噴出、日本は失われた10年といわれる長期間の社会的混乱と日本人の美徳の多くを失い、莫大な赤字国債を背負うに至ったのだ。

また、小泉自民党の敗北は売国奴的媚中政治家である岡田党首の率いる民主党が政権を取ることを意味し、これは日本にとって非常に危険な事だ。
民主党は自分達が政権を執れば改革を実行できるとほざいているが,その主張や行動をつぶさに観察すれば,彼等がいかにあさはかで机上の空論に過ぎない夢物語を主張し,票を得るために既得権益を持つ団体や公務員にこびへつらう保守派であるかが理解できる。
もし本当に彼等が行財政改革を実行するつもりなのなら,なぜ今回の郵政国会で郵政民営化法案に対抗する法案を提出しなかったのか?
民主党の各議員はいろいろと言い訳をしているが,結局のところ民主党の衆議院議員には若手が多く強力な選挙基盤を持たないが故に,特定郵便局の組織票を手放す事を危惧したからである。
野党にいるにもかかわらず既得権益との対立を避け自己の保身と票読みしかできない政党に、政・官・民の癒着により強固に構築された公務員の既得権破壊と行財政改革が断行できる訳が無い。
それ以上に小生が最も危惧するのは,民主党が旧社会党系の左翼的夢想主義に感化されて、国家主権の委譲と共有などという夢物語以上の亡国論を主張したり,岡田党首自身が対米追従の修正と東アジア中心外交などという寝言をほざいている点だ。
「日中友好という名の幻想~日本を守るために~」でも述べたが,急速に軍備を増強し膨張政策を取る中国共産党に対していかに日本を守るかが最も重要な懸案であるこの時期に,あろう事かアメリカとの同盟関係を破棄して中国共産党との連携を主張するなど正気の沙汰ではなく,売国奴以外の何者でもない。
民主党が政権を取った場合,日本が国家経済の破綻と国家の滅亡へむかうのは確実である。

バブル経済の崩壊で我々は美徳と考えてきた多くのもの~治安の良い社会、礼儀正しく勤勉な国民性、終身雇用制に代表される安定した雇用、持続的な経済成長~を失い、10年以上の歳月と莫大な血税をバブルの清算のためだけに浪費してきた。
家族の崩壊により親殺し・子殺しが当たり前となり,治安は乱れて異常な犯罪で罪の無い人々が殺される一方裁判所は温情判決により犯罪者を放任し,社会は混乱して多くの不正や汚職が蔓延し,日本はまさに国家的危機にある。
そうした混乱の中で日本人の誰もが改革の必要性、それも小手先のものではない日本を根本から改革し再生させるための改革の必要性を痛感したからこそ,「変人」と呼ばれた小泉純一郎氏を日本の首相に選択したのではなかったか。
彼の政治手法や発言は強引で問題がある事、彼の改革は日本を「勝ち組」と「負け組」に分断し誰もが平等なムラ社会を崩壊させる事、郵政事業民営化の裏にはメガバンクの総預金量に匹敵する郵便貯金を巡るアメリカの意向がある事も十分承知している。
しかし現在の日本には既得権益を破壊し効率の良い政府と社会を作り上げるための改革が絶対に必要であり,これを実行するためには痛みを伴う強権的手法以外に方法はない。
誰もが満足するような改革はもはや改革ではなく,そのような既得権益の妥協により生まれた改革では日本は立ち直れない。

この選挙結果如何によっては,日本は明治維新・第二次世界大戦の敗北に匹敵する社会構造の変化を経験する事になるだろう。
我々はまさに歴史的変革のまっただ中におり,日本の将来と子供たちの未来が我々の選択にかかっているのだ。
郵政民営化法案の否決と衆議院解散を受けて実施された緊急世論調査では,国民の小泉首相に対する前例のない「参議院否決による衆議院解散」を断行し有言実行を貫いた爽快感と、痛みを伴う構造改革を独断で実行する政治手法への反発という複雑な感情が見て取れる。
また日本人は強力な指導者よりも権力の分散と不明瞭化を望む特異な国民性があり,小泉首相の一種独裁ともとれる政治姿勢には感情的反発もあるだろう。
今後次々と実施される世論調査とマスコミのキャンペーンがどのように国民の投票行動に影響し、どのような選挙結果をもたらすかは未知数だ。

ただ、ありきたりな主張である事は十分承知の上で、最後にこれだけは主張しておきたい。
「民主主義の意義~独裁制と民主主義~」でも述べたが,我々の社会は自己責任を伴う議会制民主主義により運営されている。

我々と我々の子供たちの将来を選択するためにも,公明党の組織票が国家の命運を左右するような事態を避けるためにも,必ず投票して自分の意見を示そう。
改革の進まない政治を嘆き,崩壊する社会を目の当たりにして昔を懐かしみ,高額の税金と低い社会保障に怒るだけではなく、我々が何を望んでいるのかを明らかにしよう。


その結果小泉自民党の痛みを伴う改革が継続されるのか,岡田民主党の親中保守的政権が誕生して失われた10年を再び経験するのか,その選択は我々にしかできないのであり、この時代に生きている我々の義務なのだ。

今日の箴言
「歴史は始まっている。主人公は我々だ。」

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