吾輩はハムである。
名前はまだ無い。
日が落ちて、吾輩がいつもの運動を始める時間に起き出したら、何やら飼い主が「年が変わった」と騒いでいる。
何事かと思ったら、人間の方で勝手に決めている暦というやつが、新しいものに変わったらしい。
俗に言う新年なのだそうだ。
なんでも、新年になると人間は嬉しい気持ちになるらしい。
それで、飼い主もやけにニヤニヤしていたというワケである。
そうは言っても、暦などというものは人間の理屈であるから、ハムである吾輩には関係がない。
酒を飲んで浮かれている飼い主は放っておいて、吾輩は日々、世界平和のために静かに崇高な思考を巡らすのである。
と、思っていたのに、飼い主が吾輩の思考の邪魔を始めた。
吾輩のゲージの蓋を開け、ニヤニヤと笑いながら吾輩を見つめているのである。
基本的にこの飼い主は悪い人間ではないし、吾輩のお世話もよろしくやってくれるのであるが、 正直、これには「気持ち悪い」の一言である。
おまけに、吾輩のゲージにクルミを入れて、「お年玉」などと“ろれつ”の回らぬ言葉で言っている。
吾輩が何度も「これはクルミである」と教えても、「オトシダマ、オトシダマ」を繰り返すのである。
どうも吾輩の飼い主は、新年に飲む決まりとなっていると主張しているお酒とやらを飲み過ぎて、物事の名前すら忘れてしまったらしい。
先行きの不安なことである。