切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

1月 歌舞伎座 夜の部

2009-01-14 22:07:03 | かぶき讃(劇評)
今月から「さよなら公演」の歌舞伎座。でも、演目の選び方が力みすぎなんじゃないですか、松竹さん!というわけで、簡単に感想っ!

①対面

なぜか十郎の方がお兄さんの曾我兄弟(五郎・十郎)VS敵役の工藤祐経というこの芝居のストーリーだけど、結局、役者の声比べみたいな演目でしょっていうのが、わたしの「対面」の鑑賞法。

さて、今回驚いてしまったのは、五郎演じる吉右衛門の苦しそうな高い声!

花道奥からの声の高さには、「本当に吉右衛門なの?」っていうビックリ感があったし、花道から舞台に出てからも、吉右衛門の声の奮闘が続く。

しかも、ただ高いだけじゃなく、非常に技巧的な声の出し方なのがこの人ならではで、来月の勧進帳に影響が出なければいいなあって、真剣に心配してしまったなあ~。

やっぱり、五郎みたいな役を今の吉右衛門にやらせるのは本当に無理があります。松竹さん考えた方がいいんじゃない?

この舞台で、わたしが好感を持ったのは魁春の舞鶴。花道手前の立ち姿は古風な女形の雰囲気が充満して、大歌舞伎って感じがしましたね~。

幸四郎の工藤は、立ち姿はとても立派。でも、悪役の力感というのには乏しくて、寺子屋の松王みたいな病身に思えてしまったのはわたしだけでしょうか?

これ以上書くと、また敵を増やしてしまいそうだけど・・・。

②鏡獅子

勘三郎の「鏡獅子」は今までも何回か観ているけど、個人的には今回が一番楽しめたかな~。

というのも、過去の勘三郎の「鏡獅子」はピリピリした緊張感があって、凄いとは思っても、楽しめるという感じにはならなかった。

でも、今回は力が抜けているというか、自信満々というか、着物の裾を返す仕草ひとつでも、よどみない流れの所作に思えて、とってもナチュラルなんですよね。しかも、動きのひとつひとつはやけに若々しい。弥生の姿のときなんか特にわたしは楽しめましたね。

ところで、演劇としてこの演目を考えるときにわたしが重要だと思うのは、舞台の最初、白髪の家老と老婆の登場と、白髪の老婆に引かれて弥生が出てくるという導入部だとわたしは思うんですよね。(ちょっと、「マクベス」の導入部に通じるものがあると思うのですが・・・。)

この白髪の老人という仙人的なキャラが、この夢幻舞台の演出に不可欠なものであって、今回の吉之丞はいい雰囲気を出していました。また、局吉野の歌江の古風さも効果的。

なお、胡蝶の精の千之助&玉太郎はかなりの好演。大阪でおじいさんが喜んでるんじゃないですか、千之助君。

なお、わたしの近くの席のひとたちが橋之助の子供なんて間違ったことを言っていて、直してあげようか迷いました・・・。

③鰯売恋引網

前回、勘三郎襲名の舞台で出た演目ですが、あのときはひどいドタバタ喜劇なっていて、あの世の三島由紀夫(原作者)もさぞや怒っているだろうって思いましたが、今回はいかに・・・。

印象でいうと、前回よりはドタバタ度が減って多少マシになったものの、やっぱり、勘三郎のこの芝居に対するスタンスは変わらないなんだなって感じは持ちました。

で、念のために原作を改めて読み直してみたのですが、基本的に原作自体が練り足りない作品ではあるんですよね。

おそらくは当時の新歌舞伎の半端に近代調の芝居のアンチとして書かれた作品なんでしょうが、その「アンチ」以上の面白さは原作からは出てこない。

ヒロインの蛍火の太平楽なお姫さまぶりは、櫻姫のイメージに近いものだと思いますが、そうだとすると、玉三郎はもっと浮世離れした雰囲気を出すべきで、わたしなら、故澤村宗十郎や片岡秀太郎、市村萬次郎みたいな女形で見てみたい役ではありますね。

また、猿源氏という役は鰯売りの呼び声をキーにしている役だけに、台詞全般がもっと歌う感じの方がよいと思うのですが、たとえでいうと、落語の三代目春風亭柳好みたいな陽気な調子で一貫した方が楽しくなるし、最後の鰯売りの呼び声の落ちが聞いてくると思うのですが、このあたりどうなんですかね~。(意外と團十郎が合うかもしれない。)

というわけで、 わたしが切に望むのは、この芝居の初演メンバーだった歌右衛門・先代勘三郎コンビのこの芝居の映像を見てみたいということ。たぶん、いまのお茶らけた演出とは違うものが出てくるんじゃないですかね~、松竹さん。

以上、また敵を増やしちゃったかな~。

<参考>

決定版 三島由紀夫全集〈22〉戯曲(2)
三島 由紀夫
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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (へえ)
2009-01-14 22:19:53
敵とか言っちゃってるところが器が小さいねえ。なぜ稚拙なのか、わかってないようだね。
返信する
コメントありがとうございます。 (切られお富)
2009-01-15 02:51:27
>敵とか言っちゃってるところが器が小さいねえ。

たいした知識もなさそうなのにコメントするセンスの方が器が小さいんじゃない?

>なぜ稚拙なのか、わかってないようだね。

それを散文的に説明すればいいじゃない?
ボキャ貧ですか?
返信する
吉右衛門丈の五郎について (ミッチ)
2009-01-17 10:55:14
はじめまして ミッチと申します。
よろしくお願い致します。
先日 歌舞伎座夜の部拝見しました。
歌舞伎観劇暦も浅いので、難しいことは よくわからないのですが・・・
吉右衛門丈の五郎は見ていて本当に辛いものがありました。 なぜ今吉右衛門丈が五郎なのか? 全く理解できません。
お正月なので豪華に幹部役者を並べれば良いということでしょうか?
吉右衛門丈の贔屓なので・・こういう使われ方を残念に思いました。
はじめてなのに・・長々とすみませんでした
返信する
コメントありがとうございます。 (切られお富)
2009-01-18 02:32:12
ミッチさん はじめまして。

まったく同感です。

わたしも播磨屋贔屓なんですが、来月の勧進帳であの名調子が聞けなかったらどうしてくれるの!って思ってしまいましたよ~。

どうも「歌舞伎座さよなら公演」の演目の選び方と配役って、今後も問題がありそうで不安ですね~。

今後もよろしくお願いします!!
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