切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

寿新春大歌舞伎 (新橋演舞場) 昼の部

2005-02-10 06:45:00 | かぶき讃(劇評)
【昼の部】
①毛谷村

ベテラン役者がやる芝居というイメージを持っていた「毛谷村」。近年でも、六助は吉右衛門、富十郎、梅玉、お園は時蔵、雀右衛門(!)といった面々がやっているのだけど、この芝居に若手・海老蔵と菊之助が挑戦!さてどうなるんだろうと思いながらの幕開けだった。

六助という役は田舎者で鷹揚な役。眼光鋭い海老蔵とはタイプが違うし、ベテランがやった方が懐が深い感じがすると思っていたのだが、そこはさすが海老蔵、ベテラン陣が演じたのとは違ったおおらかで朴訥とした若者像を難なく見事に演じていて、「やっぱりこの人、大物だよな~」と改めて感心。

一方、菊之助演じるお園は女形の難役で、特に花道の出が難しい。男勝りの女性が男装し虚無僧姿で登場、これを男である女形が演じるわけで、並みの若手では務まらない。近年では、国立劇場での雀右衛門の舞台があまりに素晴らしく、忘れられないところ。文章で書くと、いったいどんな花道の歩き方なのかと思われるのでしょうが、これが実際に生の舞台を見るとナルホドという歩き方になるもので、女形の芸の深さがわかるのだけど。

さて、今回の菊之助。さすがに器用な人、雀右衛門ほどの凄みはないが、花道の出は前述の雰囲気が見事にあり、「若くてもやれる人はやれるもんだ」と納得。ただ、六助がじつは親の決めた許婚であることがわかって急に態度が変わり色っぽくなるくだりは、もうひとつ色気が薄い。雀右衛門はここも素晴らしく、世話女房風のほんわかとした色気が漂い絶品だったのだけど、この辺りは今後の菊之助に期待というところか。

敵役・微塵弾正役の亀蔵は近年見た、梅玉、段四郎、歌昇に較べても憎らしい感じがあって好印象。

最後に微塵弾正の正体を六助が知り、仇討ちをするための引っ込みのくだり、ここでこの芝居では初めて、海老蔵の目が鋭くギラギラし始め、「嗚呼、いつもの海老蔵だ!」と心ときめく。

難しい芝居だし、課題も細細あるんだろうが、「若手」なんていうカギ括弧はこの二人には無用だということを改めて納得した舞台。最後の海老蔵の目を見て、海老蔵流の「毛谷村」の遠からず完成する日が来るだろうと感じた私でした。

②奴道成寺

道成寺のバリエーションのひとつ。
江戸文化の爛熟期、役者も世襲なら贔屓の観客層もいわば世襲だったわけで、飽きっぽい観客のために人気狂言には様々なパロディやバリエーションが作られた。そのうちのひとつ。つまり、こういう出し物って、原典を知ってること前提で作られてるんですよね。だから、道成寺好きじゃないと、見物も辛いのではと想像するのですが…。

今回は藤間流家元、藤間勘右衛門の名を持つ、尾上松緑。私はてっきり松緑家所縁の出し物なのかと思っていたら、上演記録を見る限り全然違うんですよね。そうなると、なんで松緑で奴道成寺なんだと正直感じてしまった。渡辺保氏は劇評で、松緑は腰が高いと批判していたが、そもそも大柄な松緑に女に化けた狂言師の舞踊というのは無理がありはしないかという気がしてくる。過去の上演記録では、三津五郎、富十郎、猿之助といった辺りが複数回やっているが、松緑とはタイプが違う。松緑には「船弁慶」や「棒しばり」みたいな振りが大きいものの方が似合うんだが…。今回のこの組み合わせ、松竹の提案なのか本人の希望なのか、知りたいところ。

③人情噺文七元結

明治の落語家・三遊亭円朝の有名な人情話が原作のこの芝居。じつを言うとあんまり好きじゃないんですよね、落語としても、芝居としても。確か談志も「主人公の長兵衛の心根がわからない」と言ってたし、落語としても全然名作じゃないと思うんだけどな…。

芝居としては、以前吉右衛門が長兵衛をやったときが妙な説得力があって、初めて芝居としても関心したのだけど、あとはどうもねえ…。

今回のこの芝居は岡村研祐改め尾上右近くんの襲名披露も兼ねているということもあり、華やかで賑やかな軽い演出。敢えて落語家で例えるなら、志ん生のやった「文七元結」という感じか。

今回良かったのは、長兵衛女房お兼役の田之助。もつれた台詞も笑いに変える芸とそれを受ける菊五郎、息のあった二人の芝居で楽しかったし、舞台も沸いた。

長兵衛の家に舞台が戻って、家主役の左團次と和泉屋清兵衛役の團十郎登場。團十郎登場の瞬間はひときわ大きな拍手で私も目頭が熱くなった。京都南座では復帰していたとはいえ、久々の東京での舞台姿。先月の歌舞伎座夜の部に続いて私も涙腺が弱くなったなあ。こころなしか、團十郎の芝居も渋みが増し、平成の團・菊・左が揃ったところで尾上右近襲名の挨拶。

今回、長兵衛娘お久役の岡村研佑改め尾上右近くんは、歌舞伎座通いにはおなじみ。近年の子役としてはもっとも舞台を沸かせた子役で、歌舞伎座では「けんすけ!」という掛け声が飛ぶこともしばしば。とりわけ舞踊が素晴らしく、これも六代目菊五郎のひ孫故?というのはマスコミ風の言い方か?要するに本人が舞台好きで稽古も苦にならないということなのでしょう。口上では鳶頭姿でいかにも兄貴分風な海老蔵が、大河ドラマ「武蔵」撮影時に彼から電話で「どうしても相談したい事があるので会ってくれ」と言われ、会ってみると「(父親の清元の世界でなく)どうしても役者になりたい」と言われたというエピソードを紹介。「自分が11歳の時よりしっかりしている」というのが海老蔵の感想だったとか。ただ、尾上右近くん、「右近」の名を襲名するということは、将来「九朗右衛門」の名を襲名するのかな?そうするとあんまり縁起のよくない気もするが?

まあ、今後の右近くんの活躍に期待ですね。

最後に敢えて苦言。
この芝居に登場する、時蔵、左團次の二人は歌舞伎座と掛け持ちなんですよね。しかも、左團次は歌舞伎座昼の部ニ幕目の「石切梶原」に出た後、この新橋演舞場三幕目に出演。時蔵はこの芝居の後、歌舞伎座夜の部一幕目「鳴神」に出演。いくら歌舞伎座と新橋演舞場が目と鼻の先とはいえ、どちらの小屋でも非常に重要な役の掛け持ちで、役者にとっても芝居にとってもまったくよくないことだと思う。(因みに福助も掛け持ちなんですよね。歌舞伎座と新橋演舞場の夜の部。)一月の舞台日程発表の時にも批判したのだけど、同じ月に複数の劇場で芝居の興行をしては、歌舞伎ファンもすべて観ることなど出来ないし、役者や舞台関係者にも皺寄せが来る。もうちょっと考えた方がいいんじゃないですか、松竹さん!一月なら客が入るってもんでもないでしょ?

★夜の部はまたあとで!

【夜の部】
①鳥辺山心中

②六歌仙容彩

③御所五郎蔵

・来春一月の歌舞伎興行。
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