今年はちゃんとその月のうちに感想書こうって決めたんだけど、いつまで続くかな~。というのも、書き始めると長くなっちゃって…。
①鶴寿千歳
おめでたい舞踊劇。雄雌の鶴に見立てた舞で、今回は雄鶴が梅玉、雌鶴が時蔵。
この演目って昭和天皇の即位記念のものなんだそうで、初演は昭和3年。その時の配役は、十五代目羽左衛門と六代目菊五郎だったんだとか。フランス人とのハーフといわれる戦前最高の美男役者・十五代目羽左衛門と踊りの名人・六代目菊五郎のコンビとなれば、さぞや華やかでメリハリの利いた舞台だったんだろうけど、今回の梅玉・時蔵コンビはなんだかゆったりおっとりした印象で、できることなら初演が観てみたかった!
因みに、大正天皇崩御は12月25日で、昭和元年はあっという間に終わって、すぐに昭和2年の正月になっちゃったわけだから、この演目の初演が昭和3年1月っていうのは全然不敬じゃありませんよね、右翼の皆さん。
②夕霧名残の正月
初代坂田藤十郎の出世作ながら、記録が残っていないのでほとんど今井豊茂の新作のようなこの演目。わたしにはどうもひねりが足りないようにに思えて、ちょっと物足りなかったなあ…。
夕霧の死を悼む伊左衛門の前に在りし日の夕霧が現れるという夢のような芝居なわけだけど、舞台装置がシンプルなので夢幻って感じがいまいちしない。扇屋夫婦の我當・秀太郎はいい感じだし、本物の紙の着物「紙衣」を着た藤十郎と雀右衛門の儚いイメージもいいんだけど、それにしてはあまりに舞台装置が殺風景で…。
廓文章も結構半ばはだれるんだけど、色彩の鮮やかさや小道具でなんとか見れちゃうのに、この芝居は時間が短い割りにもうひとつ…。
少し改善策がいるんじゃないかな?これは…。
PS:因みに夕霧・伊左衛門に興味を持った方は、こちらのマンガをどうぞ!
・『難波鉦異本(なにわどらいほん)』①、② もりもと崇 著
③奥州安達原
以前、国立劇場の1月公演で吉右衛門が通しでやってると思うんだけど、その年のわたしは体調不良で観劇を断念。そのことを心底後悔しましたね、この日の舞台を観て!
前半は、いわゆる「袖萩祭文」。切腹しなければならなくなった父親に会うため、駆け落ちして勘当になった娘・袖萩が、目が見えないので自分の娘に手を引かれながら雪道を父親の屋敷まで訪れ、許しを請うという芝居。
わたしは先代勘三郎が国立劇場でやった袖萩のビデオを観たことがあるぐらいなのだけど、これが画質が悪いながら凄まじい名演で、あのお世辞にも美しくない顔の勘三郎の女形姿が、仕草、形のかっこよさで美人見えてしまうマジックにおおいに感動した記憶がある。
で、今回の袖萩役・福助なんだけど、妙に艶っぽく、幼い子の母親ってイメージの袖萩で、随分嘆く芝居だなあって感じがした。先代勘三郎はそんなに大げさに嘆かなかったし、そのことでかえって奥ゆかしく許しを請う感じだったのに、あれだけ嘆いて見せられると、はじめから勘当されるような事するなって気がしてくるから不思議。
袖萩の父母、平直方の段四郎と浜夕の吉之丞は、貫禄のある老け役で「嗚呼!大歌舞伎!」っていう堂々の舞台で個人的には大満足。
さて、それにもまして目が覚めるようなのはなんといっても後半で、切腹した直方と袖萩を見届けた、上使・桂中納言じつは阿倍貞任の吉右衛門が舞台上手の障子が開いて登場。もう、この時点で別世界の人ぐらいの貫禄があったんだけど、しらばっくれて花道まで行ったときの芝居といい、正体がばれた後の迫力のある姿といい、正月の大歌舞伎はこの人じゃなきゃ駄目だなってつくづく思いましたね。何年か前の一月に仮花道近くの席で見た、吉野川の大判事以来かな、これは。
もう一回、国立で通し上演やってくれないかな、ほんとに!
④万才
前の幕に続いて、福助が登場。忙しくて気の毒な気がしたけど、袖萩より個人的はこっちの方がよかった。扇雀とのコンビも割りと鋭角な舞踊にわたしには思えたし…。
⑤曽根崎心中
文楽の曽根崎は吉田玉男の徳兵衛が専売特許だけど、歌舞伎の方はお初が新・藤十郎の専売特許というわけで、やや消化不良だった「夕霧名残の正月」と違ってこっちが正真正銘の襲名披露演目ってところでしょう。
前々から思っていたのだけど、新・藤十郎の芝居って、二代目鴈治郎の生前、死後でちょっと違うというか、二代目の死後のほうが台詞のヒラヒラした感じが強まってるんじゃないかって思うんですよね。もっとも、わたしがそう思うのは過去の舞台のビデオから感じているだけなんで、是非ともベテラン芝居通の方々のご意見を聞きたいところなんだけど。
で、正直なことをいうと、わたしもごくごく最近まで、新・藤十郎の台詞<ヒラヒラ>感が苦手で、好きな役者じゃなかったんだけど、あるときふと、「鴈治郎家の上方和事って、三代目鴈治郎(当時)が中村玉緒の兄貴だってことで説明がつくんじゃないか?」ってなんとなく思うようになってから、「河庄」の治兵衛が俄然可愛く思えるようになってきた。
ところで、今回の徳兵衛は息子の翫雀なんだけど、おじいさん(二代目鴈治郎)と比べるのは酷とはいえ、この人って良くも悪くも青年役者って感じで、渋いリアリズムというか関西の市井に生きる人って雰囲気のあった二代目鴈治郎とは随分印象が違う。どちらかというと、「日本昔ばなし」に出てくる朴訥とした青年像の徳兵衛に見えるので、どうしてもこの芝居の主役はお初の藤十郎だってことになるのだと思う。(二代目鴈治郎・扇雀コンビのときはあくまで主役は徳兵衛の鴈治郎だったんじゃないかな?)
で、藤十郎のお初なんだけど、正直なところ、最近の藤十郎の娘役・赤姫役はさすがにトウが立ってるんじゃないかって思うことがわたしは多い。もう少し年増の役や子持ちの役なんかだと、以前絶賛した「葛の葉」みたいに素晴らしいんだけど、あの<ヒラヒラ>感も相まって、「こういう若い子はいないんじゃないかな?」って思ってしまうこともしばしば。だから、今回の舞台でわたしがしっくり来たのは、天満屋以降で、要するに場面が夜になってから。特に最後の心中の場面はグーンと若く美しく見えました。
ところで、脇役だと憎まれ役・九平次の橋之助が意外と好演で、なかなか憎憎しい。でも、亡くなった坂東吉弥の上方っぽい空気や増村保造の映画「曽根崎心中」の橋本功の強烈な憎憎しさには及ばないかな?それと、我當の久右衛門がよかった。去年の「河庄」の孫右衛門もよかったし、無骨なイメージがしていたこの人がこんなに上方和事の雰囲気を持ってるとはそれまで思わなかったし、老け役の情が増してきたような気がして、最近とみに好きになってきた。こういう傾向って、わたしがべた誉めして一部で顰蹙を買った、国立の「伊賀越」くらいからですよ、きっと。(自画自賛!)
最後に、今回の新演出で、花道にピンスポットの後、舞台が暗転、廻り舞台っていう場面転換は意外と成功してると思った。こういう新演出を襲名披露でやるというのはなかなか凄いことだとは思いますね、山崎屋!
①鶴寿千歳
おめでたい舞踊劇。雄雌の鶴に見立てた舞で、今回は雄鶴が梅玉、雌鶴が時蔵。
この演目って昭和天皇の即位記念のものなんだそうで、初演は昭和3年。その時の配役は、十五代目羽左衛門と六代目菊五郎だったんだとか。フランス人とのハーフといわれる戦前最高の美男役者・十五代目羽左衛門と踊りの名人・六代目菊五郎のコンビとなれば、さぞや華やかでメリハリの利いた舞台だったんだろうけど、今回の梅玉・時蔵コンビはなんだかゆったりおっとりした印象で、できることなら初演が観てみたかった!
因みに、大正天皇崩御は12月25日で、昭和元年はあっという間に終わって、すぐに昭和2年の正月になっちゃったわけだから、この演目の初演が昭和3年1月っていうのは全然不敬じゃありませんよね、右翼の皆さん。
②夕霧名残の正月
初代坂田藤十郎の出世作ながら、記録が残っていないのでほとんど今井豊茂の新作のようなこの演目。わたしにはどうもひねりが足りないようにに思えて、ちょっと物足りなかったなあ…。
夕霧の死を悼む伊左衛門の前に在りし日の夕霧が現れるという夢のような芝居なわけだけど、舞台装置がシンプルなので夢幻って感じがいまいちしない。扇屋夫婦の我當・秀太郎はいい感じだし、本物の紙の着物「紙衣」を着た藤十郎と雀右衛門の儚いイメージもいいんだけど、それにしてはあまりに舞台装置が殺風景で…。
廓文章も結構半ばはだれるんだけど、色彩の鮮やかさや小道具でなんとか見れちゃうのに、この芝居は時間が短い割りにもうひとつ…。
少し改善策がいるんじゃないかな?これは…。
PS:因みに夕霧・伊左衛門に興味を持った方は、こちらのマンガをどうぞ!
・『難波鉦異本(なにわどらいほん)』①、② もりもと崇 著
③奥州安達原
以前、国立劇場の1月公演で吉右衛門が通しでやってると思うんだけど、その年のわたしは体調不良で観劇を断念。そのことを心底後悔しましたね、この日の舞台を観て!
前半は、いわゆる「袖萩祭文」。切腹しなければならなくなった父親に会うため、駆け落ちして勘当になった娘・袖萩が、目が見えないので自分の娘に手を引かれながら雪道を父親の屋敷まで訪れ、許しを請うという芝居。
わたしは先代勘三郎が国立劇場でやった袖萩のビデオを観たことがあるぐらいなのだけど、これが画質が悪いながら凄まじい名演で、あのお世辞にも美しくない顔の勘三郎の女形姿が、仕草、形のかっこよさで美人見えてしまうマジックにおおいに感動した記憶がある。
で、今回の袖萩役・福助なんだけど、妙に艶っぽく、幼い子の母親ってイメージの袖萩で、随分嘆く芝居だなあって感じがした。先代勘三郎はそんなに大げさに嘆かなかったし、そのことでかえって奥ゆかしく許しを請う感じだったのに、あれだけ嘆いて見せられると、はじめから勘当されるような事するなって気がしてくるから不思議。
袖萩の父母、平直方の段四郎と浜夕の吉之丞は、貫禄のある老け役で「嗚呼!大歌舞伎!」っていう堂々の舞台で個人的には大満足。
さて、それにもまして目が覚めるようなのはなんといっても後半で、切腹した直方と袖萩を見届けた、上使・桂中納言じつは阿倍貞任の吉右衛門が舞台上手の障子が開いて登場。もう、この時点で別世界の人ぐらいの貫禄があったんだけど、しらばっくれて花道まで行ったときの芝居といい、正体がばれた後の迫力のある姿といい、正月の大歌舞伎はこの人じゃなきゃ駄目だなってつくづく思いましたね。何年か前の一月に仮花道近くの席で見た、吉野川の大判事以来かな、これは。
もう一回、国立で通し上演やってくれないかな、ほんとに!
④万才
前の幕に続いて、福助が登場。忙しくて気の毒な気がしたけど、袖萩より個人的はこっちの方がよかった。扇雀とのコンビも割りと鋭角な舞踊にわたしには思えたし…。
⑤曽根崎心中
文楽の曽根崎は吉田玉男の徳兵衛が専売特許だけど、歌舞伎の方はお初が新・藤十郎の専売特許というわけで、やや消化不良だった「夕霧名残の正月」と違ってこっちが正真正銘の襲名披露演目ってところでしょう。
前々から思っていたのだけど、新・藤十郎の芝居って、二代目鴈治郎の生前、死後でちょっと違うというか、二代目の死後のほうが台詞のヒラヒラした感じが強まってるんじゃないかって思うんですよね。もっとも、わたしがそう思うのは過去の舞台のビデオから感じているだけなんで、是非ともベテラン芝居通の方々のご意見を聞きたいところなんだけど。
で、正直なことをいうと、わたしもごくごく最近まで、新・藤十郎の台詞<ヒラヒラ>感が苦手で、好きな役者じゃなかったんだけど、あるときふと、「鴈治郎家の上方和事って、三代目鴈治郎(当時)が中村玉緒の兄貴だってことで説明がつくんじゃないか?」ってなんとなく思うようになってから、「河庄」の治兵衛が俄然可愛く思えるようになってきた。
ところで、今回の徳兵衛は息子の翫雀なんだけど、おじいさん(二代目鴈治郎)と比べるのは酷とはいえ、この人って良くも悪くも青年役者って感じで、渋いリアリズムというか関西の市井に生きる人って雰囲気のあった二代目鴈治郎とは随分印象が違う。どちらかというと、「日本昔ばなし」に出てくる朴訥とした青年像の徳兵衛に見えるので、どうしてもこの芝居の主役はお初の藤十郎だってことになるのだと思う。(二代目鴈治郎・扇雀コンビのときはあくまで主役は徳兵衛の鴈治郎だったんじゃないかな?)
で、藤十郎のお初なんだけど、正直なところ、最近の藤十郎の娘役・赤姫役はさすがにトウが立ってるんじゃないかって思うことがわたしは多い。もう少し年増の役や子持ちの役なんかだと、以前絶賛した「葛の葉」みたいに素晴らしいんだけど、あの<ヒラヒラ>感も相まって、「こういう若い子はいないんじゃないかな?」って思ってしまうこともしばしば。だから、今回の舞台でわたしがしっくり来たのは、天満屋以降で、要するに場面が夜になってから。特に最後の心中の場面はグーンと若く美しく見えました。
ところで、脇役だと憎まれ役・九平次の橋之助が意外と好演で、なかなか憎憎しい。でも、亡くなった坂東吉弥の上方っぽい空気や増村保造の映画「曽根崎心中」の橋本功の強烈な憎憎しさには及ばないかな?それと、我當の久右衛門がよかった。去年の「河庄」の孫右衛門もよかったし、無骨なイメージがしていたこの人がこんなに上方和事の雰囲気を持ってるとはそれまで思わなかったし、老け役の情が増してきたような気がして、最近とみに好きになってきた。こういう傾向って、わたしがべた誉めして一部で顰蹙を買った、国立の「伊賀越」くらいからですよ、きっと。(自画自賛!)
最後に、今回の新演出で、花道にピンスポットの後、舞台が暗転、廻り舞台っていう場面転換は意外と成功してると思った。こういう新演出を襲名披露でやるというのはなかなか凄いことだとは思いますね、山崎屋!
勘三郎さんの時のことを思うと何だかとてもアッサリしていた襲名披露でした。
トラバしようにも出来なくて・・・残念です
奥州安達原の通しはちょうど5年前の1月でした。
千穐楽、東京は大雪で、舞台の上も劇場のロビーの外も雪景色。
吉右衛門の袖萩は、さすがに大きいなとは思いましたがちゃんと女形でした。
今月とは違い、中納言は花道からの登場でした。
あださんは二度観ましたが、初見のときは結構?が多かったです。
二度目でやっと分かったところがありましたね。
少し入り組んでいるんですかね。
通して観てみたいです。
同じく顔見世での「引窓」濡髪長五郎も情感たっぷりで良かったですよ。
これだから、知り合いから「ブログネタは歌舞伎だけにしておけば?」ってよく言われるんですが…。
ねもさん
新・藤十郎の舞台ってどうも東京では客の入りがいまいちですよね。でもおかげで、以前国立でやった上方版忠臣蔵の通しのときは、扇千景さんから筋書きにサインしてもらえたんですけど…。
brusqueさん
よかったですよ、大判事。でも、あのときは玉三郎の定高が観たくて花道よりの席を希望してたんですけど、そっちは満席だったんで、仮花道の方にしたんですよね。でも結果的にはよかったかな。
ブイヨンさん
沼津よかったですよね。我當さんのことでご賛同いただけて嬉しいです。国立の奥州安達原も、もう五年前なんですね。昨日の雪も五年振りだって言うから、雪の出てくる芝居だし、何か縁があるのかな?しかし、ご覧になられていたとは羨ましい限りです。播磨屋は女形もうまいですよね。松羽目物くらいでしか、なかなか見れないけど。
forthedayさん
通しだと見取りで観るのと違った感じがするもんですよね。昔、先代勘三郎がやった奥州安達原の通しをNHKあたりで放送してくれるといいんですけど。もちろん、吉右衛門のも併せて。
みしまさん
南座の顔見世をご覧になってるんですね。羨ましい!
濡髪観たかったなあ~。坂東吉弥が亡くなったときは、上方和事の脇役が薄くなるなあなんて思ったんですけど、我當さんに期待ですね、今後は。