切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

山田太一脚本作品 『早春スケッチブック』

2015-10-20 23:59:59 | TVピープル
『岸辺のアルバム』に並ぶ伝説的な山田太一作品なんだけど、全12話一気に観てみました。遊川和彦の『家政婦のミタ』など一連の作品は、この作品の衝撃性がルーツなんじゃないですかね?というわけで、簡単に感想っ。

子連れ再婚夫婦の平凡な家庭生活に、突然平穏を乱す人物が現れる。妻の元交際相手で息子の実の父親である、奔放な生活を送ってきたフリーカメラマン。平凡な小市民生活を罵倒し、「ありきたりでいいのか」と問い続ける、山崎努演じる男・・・。

このドラマって、一見「ありきたり」を批判しているようみせて、実はありきたりな生活のかけがえのなさを描いているんですよね。なので、矮小にみえた河原崎長一郎演じる父親が最後に違って見えてくる。そういう意味では、向田邦子の『幸福』と類似したテーマ性でもありますが、アプローチや作家性、書き手の性別の違い、もっといえば男性観の違いで、だいぶ印象が違う。

ちなみに、このドラマの放映は1983年で、バブル前夜くらいですか。82年が田中康夫の『なんとなく、クリスタル』、浅田彰の『構造と力』登場の年だということを考えると、沢田という全共闘世代っぽいキャラは批判される対象であると同時に、バブルに差し掛かりつつある世相への批判者でもあるのでしょう。(なお、向田邦子の『幸福』は1980年放映。)

で、出演者がいいのですが、フリーカメラマン沢田を演じた山崎努は言うに及ばず、河原崎長一郎の夫と昔やんちゃだった妻(!)の岩下志麻。母の連れ子が鶴見辰吾、父の連れ子が二階堂千寿。沢田の愛人が樋口可南子!

ドラマ第一話の妹が不良に囲まれる場面で、兄が勇ましく助けるんじゃなくて、不良たちに謝って妹を救おうとするくだり。このカッコよくないアンチドラマっぽい冒頭の違和感が、カッコいいことを言い続ける中年沢田=山崎努の登場を微妙に暗示していて面白いところ。たぶん、若い視聴者は、兄の対応に反発し、年かさの視聴者は兄の対応が当たり前だと思う。この視聴者を分裂させる仕掛けが、『岸辺のアルバム』(1977)で一軒家に突然飛び込むラジコン飛行機みたいな不吉な効果を生んでいますよね。

さて、個人的に好きなのは、ドラマ後半の、山崎努と二階堂千寿のシーン。この頃だと、山崎努の役も大分毒気が抜けてくるのですが、初老の男と屈託のない女の子のナチュラルな会話の雰囲気が実によいんですね。特に一緒に焚火をするくだり。ちなみに、撮影中も彼女は山崎努のお気に入りだったんだとか。

そして、このドラマの最高の回は、なんといっても最終回。この最終回の幸福感のために11回はあったのかと思えるほど終わり方。でも、後で知ったんですが、山田太一って、箱書きしないで脚本書くひとなんだそうで、この構成力にはあらためてびっくりさせられます。

なお、河出書房から出ているムック本では、今を時めく岡田恵和、大根仁、加瀬亮のコメントがこの作品に寄せられていますし、クドカンや木皿泉も他の作品でコメントを寄せています。山田太一のおかげで気づいたのですが、クドカン、大根、木皿の共通点って、カッコ悪さを愛おしむみたいな感覚なんじゃないですかね。

ということで、このドラマ、日本映画専門チャンネルでも放送するそうなので、興味のある方はどうぞ。シナリオに興味のある方には特におすすめ。

早春スケッチブック DVD-BOX
クリエーター情報なし
フジテレビジョン


早春スケッチブック〈上巻〉 (新風舎文庫)
クリエーター情報なし
新風舎


早春スケッチブック〈下巻〉 (新風舎文庫)
クリエーター情報なし
新風舎


山田太一 ---テレビから聴こえたアフォリズム (文藝別冊/KAWADE夢ムック)
クリエーター情報なし
河出書房新社
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« キース・リチャーズのドキュ... | トップ | BS日テレの海老蔵の特番、観... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

TVピープル」カテゴリの最新記事