吉倉オルガン工房物語

お山のパイプオルガン職人の物語

小杉の夜 2

2019年11月02日 | 酒場

濃すぎの夜、その2とその3一挙投稿だッ!

その2 嵐のマッチャン

なんともやりきれない気持ちで飲み直していたところ、僕の右手に元気なおっさんがやって来たのでした。

常連のマッチャン登場。以前にも会ったことがあったかも知れない。
何故か全部カタカナでマッチャンという表記が似合う気がする。
マッチャンは僕に自己紹介をしたのであった。

オレ、マッチャン。60歳バツイチ!

中高年、バツイチ(以上)、さらには病気や借金持ちというのが、飲み屋でよくある男のネガティブ・スペック(仮称)である。

だがしかし、ネガティブ・スペックの低さにおいてワタシに隙はない。
するとどうなるかというと、ネガティブ・シンパシー(仮称)という現象が発生して妙になつかれてしまうのだ。
同病相憐れむという言葉があるが、同病が傷つけ合うのが今の日本だ。
オレは最弱の生物であるおっさんには甘いのだ。
年とともに弱くなるおっさんは正しいと考えて良いのである。

一杯の酒と一串を頼んだマッチャンは僕にもおごると言ってくれたのだけれど、そんな謂われもないのでそこは丁重にお断りした。
じゃあと、僕と僕の左隣、先ほどのオバサンの後に来た男性に一杯おごると言って、千円を置いて去って行ったのであった。ま、そのくらいなら良いか、ということで。
マッチャンの支払額が一杯一串にしては大きかったのは店員さん全員に一杯おごったからだ。
気っ風の良いおっさんである。

若い店員の女の子にハグしたり、嵐のように騒いで、コレのいる店に行くと言って小指を立てるという昭和なアクションをして、マッチャンは去っていったのであった。

困ったものだがイヤな空気にはならなかったのだった。
気分の良い、金っ払いの良いおっさんであった。

そしてその3に繋がるのである。

その3 純愛の男

左隣に来た痩せたイヤホンを耳に突っ込んでいる彼に話しかけるつもりは無かった。
自ら外界とのつながりを拒否している者にわざわざ話しかけはしないのだ。

ところがマッチャンからお金を預かってしまった以上、仕方がない。
お店の人に千円を五百円2つにしてもらって、ひとつを彼に渡したのであった。

今帰った人から、おごりだって。

まあ、そこで話は終わりだと思っていたのだが、その彼は突如僕に語り始めたのであった。

彼にはフィリピン人の彼女がいるそうで、彼は結婚を強く望んでいるのだけれど、家族や周囲の反対が強いのだという。

うーん。まあそうかもね。

でも僕は彼女を愛しているんですよ。心から愛しているんですよ!

お、おう。

すごい勢いであった。なんか熱く語ってくれたのだが、正直酔っ払っていてよく憶えていない。
ただ印象に残っていたのは、

僕は彼女を愛しているんですよ。心から愛しているんですよ!

という言葉。
立ち飲み屋のカウンターで僕に向かって愛を叫ぶ男。
心から愛してるなんて真っ直ぐな言葉、汚れちまったオレには眩しいよ。

なにを言ったかよく憶えていなかったけれど、とても感謝されたのであった。
酔っ払うと詩人なオレさ。
彼とフィリピン人の彼女の前途に幸多からんことを!

だが疲れた。
実は4時にオープンする店の前に別の店でちょっと飲んでいたのだ。

オレは酔い酔いだったよ!

なんとか無事に定宿のカプセルホテルに帰り着いたのだが、カプセル内で電気を消さずに眠っていた。

濃すぎな夜であった。

食い逃げオバサンには参ったが、マッチャンと純愛男がリカバーしてくれたよ。
だが飲みすぎであった。
翌朝6時でまだ完全に酒が残っていた。
ゆっくりと風呂に入ってまたちょっと寝て10時のチェックアウトギリギリに宿を出たのであった。


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