図は脳損傷によって視覚能力が損なわれた患者による模写で、上が見本下が患者による描画です。
この患者の場合はものの形を見て、それが何か良く分からないため、ものの名前を正しく言うことができないので連合型視覚失認というのだそうです。
この図形を見ても自分が模写したのにもかかわらず、それが何を表しているのかが分からないというのです。
この模写の様子を見ると普通の人に比べれば非常に優れた描写力で、何を描いているか分からないで描いたとはとても思えないできばえです。
ものを見てそれがなんだか正しく答えられないといっても、失語症ではなく言語能力は普通以上だったといいますから、問題は視覚能力にあります。
ものを見てなんだか分かっているけれども正しくいえないというのではなく、見てそれがなんだか分からないのです。
ものを見てそれが何であるか正しく答えられないというのであれば、ものに対する視覚イメージ記憶が壊れているのか、ものの形を全体として正しく知覚出来ないからだと考えられます。
M.J.ファーラー「視覚の認知神経科学」では、このような連合型視覚失認患者の場合、模写能力とマッチング能力があるので視知覚は正常なので、知覚と記憶内の知識をうまく結びつけるられないためだともいえるが、知覚障害の可能性もあるとしています。
理由は患者の描画が非常に時間がかかり、描き方は「盲目的にまねた」あるいは「線から線」というようなやり方で、描かれる部分のパターンがつかめていないようだからとしています。
普通の人間なら見本がなんだか分からなくても、円とか正方形とかいった形のパターンを使うので模写にそれほど時間がかかりません。
患者の場合は見本を見る回数が異常に多く、少しの線を描くたびに見本を見に行くので時間がかかってしまうというのです。
この場合、どの説が正しいかはわからないのですが、患者がものの形が分からないにもかかわらず模写がうまく出来ているのが驚きです。
「右脳で画を描く」主義の人からすれば、右脳で描いているということになるのかもしれませんが、患者の場合は非常に狭い範囲に集中しながら描いていますからいわゆる右脳的な描画法ではありません。
形のゆがみが少ないということは、錯視が少ないということです。
狭い範囲に極端に集中しながら描いて、全体的にはとんでもない図形にならず、バランスの取れた模写が出来ているのですから、狭い範囲に注意を集中させると錯視がおきにくいのでしょう。
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