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池上彰の教養講座ー君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか ー1

2012-09-11 21:49:54 | ウエブの記事から

池上彰の教養講座

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君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか
現代世界の歩き方(15) 東工大講義録から

2012/9/3 3:30日経新聞
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 東京工業大学で4月から始めた講座「現代世界の歩き方」は今回が最終講義です。そこで今日は韓国サムスングループ企業に転職した日本人技術者Mさんの決断と行動について、皆さんの意見や考え方を聞き、議論したいと思います。

 せっかくですから大勢の前で意見を発表するプレゼンテーションの練習もしましょう。私が適宜、アドバイスします。

 それでは、先週お渡しした記事「私がサムスンに転職したわけ」(日経ビジネス2012年7月9日号)を改めて紹介しましょう。

 Mさんは10年ほど前、日本のある精密機器メーカーで次世代ディスプレーとして注目されていた有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルの研究に携わっていました。ところが会社は一向に事業化を決断しようとしません。ちょうど自身の将来に疑問を持ち始めていた頃、韓国のサムスンSDIの社長、副社長、専務が訪ねてきたのです。有能な人材を引き抜く、いわゆるヘッドハンティングのためです。「是非協力をお願いしたい」。説得は2時間にも及びました。切々としたサムスン側の協力要請に心が揺れます。決して好待遇ではありませんでしたが、韓国では外国人技術者の所得税を5年免除する制度もありました。一技術者として生きる道を優先し、韓国での技術指導を決断したのです。

 Mさんは日本企業で200を超える特許を出願し、会社に貢献していました。このため前職での研究開発に関する守秘義務に違反しないよう、公知の論文や特許技術に関する資料を基に、35人もの部下と有機EL開発に日夜取り組みました他にも多くの日本人技術者がいたようです。今ではサムスンは世界の有機EL市場で圧倒的なシェアを握るまでに成長しました。ところが、Mさんが所属していた部門とサムスン電子の部門との統合を契機に、2008年末に退社し、帰国しました。しかし、Mさんは「日本のライバルであるサムスンに技術指導をした」という理由でいくつもの日本企業の採用面接に落ち、再就職の道を閉ざされてしまいます。現在は台湾の大手電子機器メーカーの顧問として、中小型有機ELの量産技術開発に取り組んでいます。サムスンに負けないビジネスを育てたいとも決意を語っているのです。

サムスン電子は最新技術を駆使し、世界的企業へと成長した。近く55型の有機ELテレビを発売するとしている(2012年5月、韓国ソウルでの発表会)
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サムスン電子は最新技術を駆使し、世界的企業へと成長した。近く55型の有機ELテレビを発売するとしている(2012年5月、韓国ソウルでの発表会)

  ここにいる皆さんの多くが、将来、企業や研究機関の技術者として働くことになると思います。やがてはMさんと同じ立場になるかもしれません。まず、Mさんの生き方について、教室にいる学生諸君の賛否を聞いてみましょう。1は「賛成」、2は「反対」、3は「それ以外」です。3つのうち、どれかに挙手をして下さい。 

 うーん、そうですね。「賛成」に挙げてくれた学生がざっと全体の90%以上といったところでしょうか。それでは「賛成」と考えた学生の諸君に意見を述べてもらいましょう。挙手をして下さい。どうですか?

 まず、君からだね。プレゼンテーションの練習だから、教室のみんなの前に立って、発言してもらおうかな。

 学生A この人は、日本では冷遇されていたところへ、韓国サムスンからの勧誘を受けて動いたわけです。日本で働く以前の問題として、自分の技術者としての能力を世界レベルの会社で技術を生かしていくことが重要だと思います。日本の技術をどうするといったナショナリズムの問題もあるかもしれませんが、技術者であるなら、よりよいものを世の中に作っていくことは当然のこと。それが日本で実現できないのであれば、海外に行ったとしてもやむを得ないと思います。 

 はい、ありがとう。非常にわかりやすいプレゼンテーションだったと思います。基本的にいいのですが、さらにブラッシュアップするためにアドバイスしますね。まず結論から述べるようにしようね

 つまり「私はこの人の生き方を認めます。なぜならば・・・」という具合に展開すると、よりわかりやすくなるよ。

はい、ありがとう。では、次の人。 

 学生B 私はこの人の生き方を認めます。なぜならば先ほどの人が言った通り、他の日本企業がこの人の技術を生かしてくれなかった、冷遇されたからです。生きがいの点でも、転職は良かったのではないかと思います。
 技術者は利得から言っても、また野心から言っても、評価してくれる会社に行くのだと思います。この人だけではないと思うからです。そのような技術者に満足した環境を与えられないような企業は、それが日本企業であれ、外国企業であれ、企業は技術を生かせず、商品を売ることができません。もっと技術を生かせる企業の方が伸びていくのは自然な流れではないかと思うのです。僕は技術者として生きたいと思うので、この人の判断を認めたいと思います。

 
 
いけがみ・あきら ジャーナリスト。東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。近著に「池上彰のやさしい経済学」(日本経済新聞出版社)。長野県出身。62歳。
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いけがみ・あきら ジャーナリスト。東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。近著に「池上彰のやさしい経済学」(日本経済新聞出版社)。長野県出身。62歳。

 はい、ありがとう。大変わかりやすいプレゼンテーションでしたね。2番目に発表するメリットをきちんと生かしているね。まず結論から言うことができていたね。早速、前の人の発表を聞いて発言できていたことはさすがですね。

 さらに、前の人と同じ結論になるんだけど、意見の違いを出そうとしていたね。前の人は自分の生き方、技術者として社会に役立てたいという話をしていた、それを受けてさらにもう一つのポイントを出していたよね。

技術生かせなければ競争に負ける

 企業としてのこれからの道を考えた時に、たまたまこの技術者は日本で自分の技術を生かすことはできなかったけれど、やがてはサムスンだって同じことになるかもしれない。技術者としての技術を生かし切れない企業は、どこの国の企業であっても、それはやがては国際競争に負けて行ってしまうよ、だからそれではいけないんではないないかという問題提起をしていたんだね

 さらに言えば、採用した技術者の技術をきちんと生かして、それぞれがやりがいを持ってやれるような企業はこれからは発展していくし、それができないような企業は国際競争の中で負けて行くんだよというということになるのだと思います。新たな視点を提起してくれましたね。

 では次に、同じ肯定する立場でさらに自分なりの論点を言いたいという人はいますか?この際、発表してもらえれば、私のプレゼンのアドバイスを無料で受けられますよ(学生たち笑い)。 

 学生C 基本的にはこの技術者の考えに共感できるんですけれども、ひとつ僕の意見を言うと、力のある者はどんな環境でもその力を発揮できる環境に行くべきだということだと思います。今回、特に共感できているのは、記事中にある「この技術者の研究を評価しなかった日本メーカーの判断が『技術流出』を招いた面がある」という指摘の部分です。
 今回、サムスンだったから言われるのだろうけど、国内企業に転職したら、日立製作所やパナソニックだったらそんなに言われなかったんじゃないか。たとえばA社では研究ができないからB社へ移ったとしても、それは当たり前なのかなと思うんですよ。大学でもありますよね。日本の大学からヘッドハンティングされて米国の大学に行くってパターンです。
 もう一つ気になったのは、この技術者が日本企業に再就職しようとした時に「出戻り技術者の雇用を禁止」という部分がありますが、これは日本企業にとってはもったいないんじゃないかな。意地の張り合いみたいで無駄だと思いました。

はい、ありがとう。論点が非常に明確でしたね。前の2人との論点の違いをしっかり出していました。特に最後のところですね。「出戻りの技術者を採用しない日本企業はおかしいのではないか。非常にもったいないのではないか」という要素を付け加えてくれました。

 この人の生き方を肯定的に評価する意見が出ました。一方で、「いや、おかしいのではないか」という意見もあるでしょう。その立場から言ってもらいましょう。「共感できない」という人、お願いします。さっきの圧倒的な多数が賛成するという中で反対するというのはなかなか難しいですけれど。きちんと自分の意見を言う、少数意見でもきちんと主張するというのは大事だよな。はい、それではお願いします。 

 学生D 先ほど、(賛成でも反対でもない)「それ以外」に手を挙げました。よくよく意見を聞いていたら、僕の考えはやっぱり「反対」でしたので手を挙げました。どちらかというと反対というのは、「サムスンに行くから」とか「国内技術の流出になるから」とか言う前に、技術者の姿勢としてほとんどの技術者がそうなんですけど、整っている環境で仕事をもらって研究を続けるという姿勢では、仕事をさせられているのだからどこにいても変わりがないのではないか。
 そうではなくて、「サムスンに引き抜かれるくらいの人材なんだから俺のいうことを聞け」ぐらいのことを会社に言える人にならないと、技術者が道具として使われ続ける状態は変わらないと思うんです。逆に弱気になり過ぎているんじゃないかと感じました。

 
 
 
 

 

 ありがとう。この技術者は引き抜かれたわけですね。ということは、引き抜かれていくのではなくて、「俺がサムスンに引き抜かれてもいいのか」と日本の企業の中で戦う方がよいということかな。米国企業などでよくあるよね。「ヘッドハンティングがありました。これだけの報酬を提示されたんだけど、どうでしょうか」と上司に言うわけですね。すると、会社が慌てて、「それ以上出すから移るのは待ってくれ」と言ってくることがあります。会社にそう言わせるわけだな。

会社にとどまる選択肢

 自分がヘッドハンティングされたことを交渉材料にして、自分の報酬を上げる、研究の条件を良くするというやり方は海外ではよくありますね。日本でもそういう条件を作るために、もっと留まってやったら良かったのではないか、交渉すべきだったのではないかというのが彼の主張でした。なるほどね。こういう考え方もあるでしょうね。

 さあ他に、彼の生き方については容認できないとか、こんな生き方があったんじゃないか、といった意見はありませんか。それじゃあ、君だな。みんなに向かって話してごらん。

  学生E 自分はこの技術者の考え方は共感できません。もともとこの記事自体がこの人のことを一面的にしかとらえていないのではないかと思います。10年くらい前、2000年代の初め頃というのは、有機ELそのものがどれくらいの技術なのか、評価が不明瞭だったと思います。記事では有機ELを事業化できなかった経営陣を批判しているようですが、当時としては、「事業化しても100%大丈夫だ」と判断できた人はどれくらいいたのだろうか。難しかったと思います。これをもって冷遇されたと言い切って良いモノなのだろうか。まずこの点が、ハッキリ言って気持ちが悪いです。
 この人の考え方についてですけれども、自分自身以外のことがわかっていないのではないでしょうか。技術者は使い捨てられているといった表現がありましたが、私にはこの会社には「使い捨てられてしまうだけの技術者がいた」と読むことができます。先ほどの方と同じ意見です。
 サムスンSDIでは守秘義務に違反しないよう技術開発に取り組んだとありましたが、日本企業で研究開発の環境を与えられ、お金をかけて育ててもらった技術者がライバル企業に転じたとなると、育てた企業はどう思うでしょう。再就職活動をしたとしても、他社に転職してしまう恐れを感じていたら、果たして採用するでしょうか。投資を回収できないと判断すれば、会社は選んでくれないと思います。リスクが大き過ぎると会社は判断するのではないかと、個人的には思っています。このため、私はこの技術者の選択に共感できないのです。

はい、ありがとう。全く新しい視点を提起してくれました。多くのみんなと違う意見を言うことは非常に勇気のいることだけれども、議論が新しいステージに移ったといえると思います。つまり、有機ELに関しては、今だから「こんなに優れた技術だ」と言えるかもしれないけれど、当時としては投資をするには非常にリスクの高い技術だと考えられていたとしても不思議はないですね。私もそう思います。今だから、「なんでやらなかったんだ」と言えるだろうし、「なぜ」、「どうして」と断罪できるでしょう。しかし、当時大きな投資を判断するのは非常に難しかったと思います。

 この技術者は日本で所属していた企業では事業化できず、成果を出すことができなかった。そこでサムスンSDIへ行き、技術開発に取り組み、そして日本に返ってきた。再就職活動で、人事担当者から「前にいた日本企業では会社にもうけさせていないんでしょ?」と指摘されたとしても不思議ではありませんね。彼はそういう新たな視点を提供してくれました。

 さあこれまでのやりとりに関して、私はこう言いたいという人はいませんか。はい、どうぞ。

  学生F 私はこの技術者の考え方には賛成できません。どちらかというと反対の意見です。日本の企業は終身雇用を前提としていて、経営陣は全ての従業員が会社のために働くことを求めているのだと思います。一般的な人々は会社の部品の一部として動き回っているわけです。でもその中でも自分自身の意見を持ってやってきている人もいると思います
 この技術者は「こんなに会社に対してプレゼンテーションをしたのだから認められて当然」という受け身で取り組んでいるように思えます。こうした環境が嫌で、日本を飛び出して韓国で部品となって働いてきたのです。でも、韓国でも部品となって働くのが嫌で、日本に戻ってきて採用してもらおうとしたことが共感できないのです。
  はい、ありがとう。

 では、ここでプレゼンの仕方について、一言。みんなの顔を見ながらのプレゼンはやっぱり緊張するよな。良い経験だよね。こうして経験を積むことができるんだよね。最初は緊張しちゃったり、足がガタガタしてしまったり、みんなの顔が見られなくなったりもします。最初は皆、仕方がないんだな。次第、次第に経験を積んでいくうちに、みんなの顔がみられるようになります。緊張すると目の前しか見えなくなるものです。慣れてくれば、大勢の人々を眺めながら話すことができるようになりますよ。

 そうすると、人々は私の意見に賛成なんだなと感じて勇気づけられます。「本当にそうなの」と思える表情をすれば、この人たちは反対なんだなという事を確認しながら話をすることができますね。教室全体の中でも、どれくらいの人々が賛成なのか、批判的なのかを把握できるようになります。その中で賛成してくれる人々を味方につけながら、「もう少し考え直してみようよ」「こんな考え方もあるよ」と説得を試みることもできるようになるのです。ここまでくればプレゼンテーションはかなり上級クラスといえますけどね。

 意外に教室内の風景というのは良く見えるんですよ。「あの学生は居眠りをしているな」とかわかるんですね。慣れてくるとよく見えるようになるんだよ。発表技術を身につけるためにも努力してみて下さい。

 皆さん方の意見の仕方はたいしたもんですね。普通は、こうした大勢の人の前で意見を求めると、前の人と同じことを言ってしまうものなのです。前の人が言ったことを受けて、きちんと自分の意見を言ってくれているよね。これはかなりレベルの高い議論が行われていると思いますね。感心しながら聞いています。


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