第一話【小さな目】
そして、おばさんに、赤と青のセロハンの貼ったメガネを渡された。
『おばさん!これ何に使うの?』
『いいところになったらかけるのだよ。そうすると、カラーになって立体感が出るのだよ』
『ホントかな?』
『アパ!かけてみな』
『右が赤で左が青になっているだけだよ』
『映画を観ながら掛けないと変わらないよ』とおばさんが教えてくれた。
そして、ドアーを開けて中に入ると立ち観まで出ていて満員だった。
私たちは、一番後のドアーの出入り口で、立ち見で観ていた。
すると、
『子供が観てはいけないよ』と隣に立っていた背広を着た30代のサラリーマン風のオヤジにからかわれた。
恐らく、営業をサボって観ていたと思う。
そして、クライマックスになると全員メガネをかけていた。
しかし、変わらなかった事を覚えている。
『面白かったな』
『やっぱり!ダラマンも連れてくれば良かったな』
『今度!声をかけよ』
『喜ぶだろうな!?』
『その代わり!口止めだけはしないとなぁ』
『それにしても!ハゲチャビンのじじいが、和服の20代の若奥さんを犯すのも良かったな』
『エロチックで、ドキドキしたよ』
『でも、可愛い17歳の女学生が襲われるのは可愛そうだったな』
『なに!あれは演技だからいいんだよ』
『結構!冷静に観ているんだな』
『俺なんか、悔しくてたまんねぇよ』
『しかし、上田吉二郎さんは憎たらしいね』
『成人映画には、必ず出てくるもんなぁ』
『悪役の名優は、なくてはならないんだよ』
『ヤクザの親分役もかっこいいもんな』
『でも!役者はいいなぁ』
『俺も!俳優になるかな』
『時代劇の提灯持ちでもいいな』
『御用、御用、御用、御用だぁ』
『近衛十四郎だって提灯持ちから始まったんだよなぁ』
『それは、顔が良かったからだよ。お前!顔が悪いからだめだよ』
『オメェだってたいして変わんないじゃん』
そして、国道から裏道の入ると、二股になっていた。
『俺、こっちからけるから』と右側の三角方面に向かった。
『じゃ、明日な』
『うん』
『グッドバイ』
そして、サンスケと途中で別れて歩いて2時間かけて家に帰った。
家に帰るとかぁちゃんが洗濯物を畳んでいた。
黙って二階に上がろうとした。
『お前!帰ってきた時ぐらい声をかけな』
『かぁちゃん!腹減った』
『昼食べたろう?』
『歩いて帰ってきたから腹は減ってフラフラだよ』
『晩ご飯のおかずを買いに行まで待っていな』
『早くしてよ』
『わかったよ』
『映画が面白かったかい?』と聞かれた。
『面白かった』
『松竹は何をやっていた?』
『成人映画だったよ』
映画館は右に東映、左に松竹と2館並んでいた。
東映はヤクザ映画で松竹が成人映画だった。
私は、ヤクザを美化するの大嫌いだったので、一度も観たことはなかった。
そして、かぁちゃんに聞かれた映画は東映ではなく松竹だったので、内容を話すことが出来なかった。
つづく