Mangale, V. S., Hirokawa, K. E., Satyaki, P. R., Gokulchandran, N., Chikbire, S., Subramanian, L., Shetty, A. S., Martynoga, B., Paul, J., Mai, M. V., Li, Y., Flanagan, L. A., Tole, S. and Monuki, E. S. : Lhx2 selector activity specifies cortical identity and suppresses hippocampal organizer fate. Science, Vol.319, No.5861, 304-309, 2008
Abstract
海馬は記憶形成に重要な役割を担っていると考えられ、最も研究されている脳領域の一つであるが、その発生については未解明な点が多い。今回紹介した論文において著者らは、転写因子Lhx2が海馬を含む皮質の特異化 (specification) を細胞自律的 (cell-autonomous) に制御している事を示した。またLhx2 mutantにおいては、cortical hem類似組織の異所的出現に伴って海馬の異所的形成が認められた事からcortical hemが海馬発生におけるオーガナイザーorganizerであると考えられた。
著者らは以前にLhx2 KOの終脳形成におけるphenotypeを報告している。cortexの著名な縮小と皮質に隣接する組織、すなわちcortical hemとanti hem領域の拡大であった。その表現型はLhx2発現領域における前駆細胞の増殖、cortexのspecification defectといったcell aoutonomousな影響以外にも、cortexのspecificationを制御するcell non-autonomousな影響の可能性を示唆していた。今回著者らは、2つのLhx2 mutant mouseを用いる事によって、Lhx2のcell aoutonomousな機能と、Lhx2 mutantにおけるcell non-autonomousな影響を検証した。まず著者らはcortical hem fateの抑制制御には、E10.5までにLhx2が必要である事を、conditional KOを用いて示した。続いて著者らはLhx2 KOとwtとのchimeraを用いる事を用いた。Lhx2 KO由来の細胞はGFPおよびβ-Galによりlineageをtraceした。このmutantにおいてLhx2 KO由来の細胞はcortical hem, anti hemのマーカー発現を認めた事により、Lhx2はcell autonomousに、cortical hem およびanti hem fateの抑制制御をしていると考えられた。またLhx2 KO由来の細胞はclusterを形成する傾向が強いと考えられ、この性質はLhx2発現領域とcortical hemとの明瞭な境界形成に関わっていると考えられた。さらに驚いた事に、著者らは異所的cortical hem の形成に伴い、異所的海馬類似組織の形成を認めた。このことはcortical hemが海馬発生におけるorganizerであると結論付けている。
今回の研究により、今後検証されるであろう質問が生じる。
1) organizerの機能を担っている分子は何であるか。おそらくWntやFGFなど様々な分子が候補にあげられるであろうが、これらの異所的発現によっって海馬が誘導されるかどうかは、非常に興味のあるところである。
2) 異所的に出現した海馬回路はどのようなものか?通常の海馬として機能しうるのだろうか?
今回の論文は、終脳とくに海馬の発生研究を進める上で重要なmilestoneになると思われた。