音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

ストレンジャー (ビリー・ジョエル/1977年)

2010-10-23 | 男性ヴォーカル


ビリー・ジョエルはニューヨークを代表するミュージシャンである。彼の音楽にはよくニューヨークが登場するがその割には対岸にいると余り、ニューヨークっぽさを感じないのは偏見だろうか。どちらかというとブルース・スプリングスティーンの方がニューヨーク出身だと思ってしまうのであるが、これは実はアメリカのロックン・ロールの生い立ちとも関連が深いことがネックになっている。

ロックン・ロールの誕生というのは、そもそもの原型は黒人音楽のダンス・ミュージックの中に1940年代から存在していた。映画「バック・トゥー・ザ・フィーチャー」などでも見られるように、チャック・ペリーや、リトル・リチャードがダンス・ミュージックからアップテンポの原型を作り上げ、それらを白人ミュージシャンが模倣して頂点を極めたのが、ビル・ヘイリー、エルヴィス・プレスリー、ジェリー・リー・ルイスである。それで面白いことに、前述した5人の出身はいずれもニューヨークではない。ロックン・ロールの発祥とニューヨークは全く関係ないのだが、ロックン・ロールは確実にアメリカの音楽だ。アメリカ第1の都市とロックン・ロール、更に、そのロックン・ロールとアメリカン・ロックが印象としてごっちゃになってしまう故に、どうも私たちはニューヨークのミュージシャンはロック1色だと思ってしまうのではないか。ビリー・ジョエルはロックの領域というよりも、寧ろ偉大なシンガーである。彼の初期の作品にある「ピアノマン」というタイトルで分かるように、ピアノの弾き語りシンガーである。だが、彼は前述したように本当にニューヨークを愛していて、このアルバムの作品の中にも沢山ニューヨークが出てくる。タイトルの「ストレンジャー」からして、ニューヨークに在住する世界各国色々な民族の集合都市であるニューヨークは、アメリカ国家よりも合衆国家ならぬ合衆都市だという風刺も込められている。このアルバムはシングル”Just the Way you are” がなんといっても最高(個人的にも・・・結婚式の二次会のバンド演奏でも歌った)であり、この曲はシングルでも大ヒットしグラミー賞にも輝いた名曲となった。またアルバム自体も所属レーベルであるコロンビアで、サイモン&ガーファンクルの不朽の名作「明日に架ける橋」の売上記録を更新するなど、色々記録づくめになった。当時のアメリカ音楽は商業音楽の隆盛期で、この作品もプロデュースを担当した、フィル・ラモーンによるところが大きく、彼はプロデュースに留まらず、共同作曲も手がけた。イギリスでは振るわなかったがアメリカでも第2位、日本でもオリコンチャートの3位に上がり、日本音楽界にも旋風を起こした作品である。それは当時の音楽界にあってどこかに不思議と新鮮さがあり、それが、当時から世界一お洒落で流行最先端な都市ニューヨークを描写した内容であったからだということを知ったのは、実は随分後のことであった。ニューヨークは音楽にしても素敵なのだ。

この作品がきっかけになり、ビリー・ジョエルはアメリカを代表するシンガーとなる。彼は決してルックスが良いというわけでも、特別に歌が上手いわけでもない。しかし、何処か当時のアメリカのミュージシャンとは一線を画しているところがあり、それは決してカリスマ性でもない。それは、今なら分かる、ニューヨークという都市を100%表現したミュージシャンだったから、その魅力は特別だったのである。


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