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日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

半島を出よ(上)

2005年12月06日 | 読書ノート
半島を出よ (上)

幻冬舎

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 これが,『半島を出よ』(上)が想定する2011年の日本の姿だ。そして,経済破綻で疲弊し国際的に孤立した日本に,反乱軍を装った北朝鮮の特殊部隊が潜入する。わずか9人のコマンドーで福岡ドームを占拠した彼らは,ほどなく福岡全域も支配下に置き,後続の12万人の第八軍により九州を制圧し,九州を独立国とすると宣言する。

 なす術もなく占拠を許す,無いに等しい危機管理は,国家の呈をなさない。一方,精鋭中の精鋭のコマンドーたちは,現代のホンギルトン。日本の忍術にも似た縮地法という特別な武術を使う少年ホンギルトンは,わら人形に命を吹き込んでつくった7人のコマンドーと共に,李朝時代の腐敗した政治家や僧侶や王を懲らしめ,王に善政を約束させたあと,7人の分身とともに突然姿を消してしまう。そして後日談,「ホンギルトンは数えきれないほどの貧乏な人を乗せて,朝鮮半島をでて,誰も知らない新しい土地に住み着き,誰もが幸せに暮らせる夢のような国をつくった。福岡を制圧するコマンドーたちは,この英雄ホンギルドンの使命をおびて,あえて,反乱軍の汚名を受け入れる。
 一方,制圧された側は,ストックホルムシンドロームで,極度の恐怖から抵抗をはなから諦めコマンドーの圧倒的な支配力に服従し,敬愛し積極的に協力までしていくようになる。
 国家破産という,いかにも起こりえそうな想定の下で,脆弱な危機管理とホンギルトンの英雄譚を背負う反乱軍,それがストックホルムシンドロームで味付けされて,何かとても現実感を感じさせる上巻であった。

 国家の経済的な破綻で,社会が急激に不安定化する中で,大勢のホームレスがたむろするクラスターが全国各地に出現する。虐待,殺人,犯罪の只中からゾンビのように生まれ出てくる彼ら負け組みたち。しかし,やがて,このクラスターの中からある種の連帯が生まれる。彼らが敗残者となったのは,彼らのせいというよりは社会のしくみによるものであり,この連帯は,社会から受けた傷を癒しその暴力に抵抗するかのような連帯なのである。絶望的な社会情勢の中に育まれるこの連帯が,針の穴くらいの大きさで将来の希望を示唆するところからこの物語ははじまるのだが, 案外,この伏線は下巻へつながっていくのではないか。それは深読みというものだろうか。村上龍の気宇壮大な筆致は嫌な人はとことん嫌かもしれないが,ぼくの場合は特別拒絶反応はない。おもしろく読ませてもらっている。(下巻ラスト50頁へ続く) 

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