取次営業orz

取次の営業とは何か

PARCO出版『傷だらけの店長』を読んで3 POSデータについて

2010-09-15 | 読書感想文
競合店に対抗するために様々な策を練り実行してゆく「傷だらけの店長」ですが、頑なに拒絶するものがあります。全国POSデータです。この「POSデータ」というものに関して、店長の考えが表明されている印象的な場面を引いてみましょう。

『しかしある日、商品構成をどのように考えていくかを本部の人間や取次の人たちと話していた際、取次側が口にした提案に、私はカッとなってしまった。
「POSデータを拝見すると、当社の全国データによる推奨棚商品と、御店の、とくに文芸書の棚在庫が大幅に一致しません。つまり、全国的に売れていない本をかなり在庫してるということです。売行良好書で棚を固めましょう。動きの鈍い商品はバーンと返品して、当社推奨の商品にドーンと入れ替えましょう。棚にぎっしり本を差しておくものいただけない。面陳を増やして、良好書をもっと並べましょう」
ちょっと待て。ちょっと待て!何だそれは?(中略)書店員としての矜持をないがしろにされた気分だった。(中略)競合店にはたっぷり積まれている"良好書"ばかり並べて、何が「対抗」なのか?結局、大書店のミニチュアになるだけではないか。そもそも"良好書"とは何ぞや?データが全てだというのか。そうじゃないだろう。(中略)「全国データ」のような、十把一絡なものを受け入れろ、という種類の提案はほとんど拒み続けた。(中略)取次の提案者たちは熱心だった。何度も足を運び、案を投げかけ、協力をしてくれる。その熱心さには感謝の言葉もない。また、その善意を疑いもしていない。が、はっきり言ってその提案の多くは、書店側の「思い」を知らぬ素人の意見にしか私には聞こえない。(中略)POSやその他のデータを否定するつもりはない。(中略)ただし、それに使われたり、無批判に受け入れたりすることを、私の中の「書店人」が拒絶する。昨今のデータ漬けが、多くの書店員の思考を停止させ、その「職人性」を腐らせている気がしてならない。』132~135頁より

ハイ。いかがですか?

まず、ここに出てくる取次営業の提案は正しいのかというと、正しいDEATH。お店の在庫データと全国POSデータをマッチングさせた上で欠本(?)を指摘し、在庫入替を提案しているわけですから、なかなか優秀じゃないかとさえ思います。ただ、ここで取次営業が指摘している"全国的に売れていない本"はこのお店でも売れていないのかということはPOSデータから確認したほうがよいでしょう。全国的にどうであれ、このお店で売れているのであれば、返品する必要はありません。てゆうか返品してはいけません。

そして、この取次営業の「正しさ」というのは、あくまで「取次としての正しさ」という認識が必要だと私は思います。

取次がお店に品揃えを提案する場合、根拠となるものはPOSデータしかありません。そのお店のお得意様の趣向や、その棚が作り出してる文脈、書店のカラー、書店員の好み、熱意などというものを加味することは不可能です。それらを加味して品揃えするのは書店の仕事であり、これこそが書店員に求められる「職人性」ではないでしょうか(取次が偉そうに語るな!ハイごもっとも)。
したがって、取次営業としては、POSデータの上位銘柄(良好書)をきっちり揃えましょう、という提案で正しいわけです。

これは「POSデータによる品揃え」が「書店員による品揃え」よりも優れているという意味では全然ありません。取次の中には(スタッフでも営業でも)ここを勘違いしている人が多くいるように思います。

全国POSデータを根拠に、各書店ごとの送品、返品データ(POSデータを取次に配信している書店の場合はそれも)を集計し、理論上の「欠本」を抽出することができます。この「欠本」が多い書店を担当している取次営業は、会社から"改善"を迫られます。「欠本を無くせ」。つまり、全国POSデータと同じ品揃えになっていることが、売上効率の最大化であるという考え方なのです。

全国POSデータというのは、最新でも"昨日まで売れていた本の平均値"を示す指標にすぎません。それを発注し、入荷した段階で、そのお店で売れるかどうかは未知数です。また、その時点で最新の全国POSデータは変動しているでしょうから、イタチごっこなんDEATHよね。

ι(`ロ´)ノ「じゃあ、どうすりゃいいんだ!」

ひとつ事例があります。

私の担当書店で、この物語と同じように近隣に競合店(中規模店でしたけどね)がオープンしたケースがありました。この競合店はコミックの販売を得意としており、担当書店のコミックの売上は前年比で80%程度まで落ち込んでしまいました。売上はジリ貧。返本率もじわじわと上がり始めていました。

通常であれば私も、取次営業にできることとして、POSデータによる品揃えの改善(?)提案をするところですが、この時は、そうしませんでした。
この書店のコミック担当はとても熱心な人で、商品知識も豊富でした。てゆうか無知な私には、この担当者の話はチンプンカンプンで、スゲー人なだぁということぐらいしかわかりませんでした。とてもじゃありませんがPOSデータの提案などする気になれませんでしたし、したとしても「傷だらけの店長」と同じリアクションになっていたのではないでしょうか。
そこで私は、こういう提案をしました。
「これから3ヶ月間、返本率がどんなに上がっても、新刊希望数を極力満数で配本します。ですから、○○さんのやりたいように品揃えしてください。」

返品が増えれば、コミックの配本は減ります。また新刊希望数も無視されます。配本が減れば売上は減ります。書店は配本減を恐れて在庫を抱えるようになり、仕入れにも消極的になります。絵に描いたような悪循環の構図です。何もしなけば、このスパイラルに確実に嵌ります。
私は、社内のコミックの仕入・配本担当者に交渉(土下座)し、3ヶ月という条件で新刊の満数配本を約束してもらいました。
あとは、すべて書店の担当者に任せました。私は品揃えに関して一切口を挟みませんでした。情報提供すらしませんでした(これはタダの怠慢)。
これは賭けです。3ヶ月後、売上が改善していなければ、配本はバッサリ落とされるでしょう。もうコミックの仕入・配本担当は私の話を聞いてはくれないでしょう。上司からはPOSデータ欠本改善を提案しなかった責任を追及されるでしょう。

しかし、売上は改善しました。前年比105%。返本率は急激に上昇しましたが、品揃えの見直しが終わった後は元に戻りました。私は社内営業をしただけで、書店には何もしていないので特に褒められることもありませんでしたが、とてもうれしかったです。

私は書店員の力を信じています!
皆さん!今こそ職人性を発揮し、POSデータなんか足元にも及ばない御店の棚を作る時DEATH!

えっ・・・・・・・いや、ラクしたいワケじゃなくて・・・。
ギゼンシャって、・・・そ、そんな言い方ないじゃないDEATHか・・・。
・・・だ、だから、・・・だれのセイとかいう話じゃないし・・・・・・・。

/(。□。;/) 死~ん・・・。

―END―

2 コメント

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Unknown (msm5552)
2010-09-15 13:47:26
この間、お茶の水からお呼び出しがありまして「返品率が高い、条件を見直したい」と言われましたが、突っぱねて来ました。
取次の言う根拠って「データ」しかないですよね。
元神田村取次の私としては「おっしゃることは良く分かる」
しかし年間12~14点しか出さない版元にそれを言われてもねえ。配本するなってことですか?
そんな事をいっているとますますamazonに売上を取られてしまうんですが。
出版業界の最もだめな部分は取り寄せに時間がかかりすぎるところ。
客注と補充が中1日で入るようになれば大きな対抗手段になると思うのですけど。
でも、20年前からほとんど改善せず(もしかしたら大手書店はすぐ入る?)
要するに業界の怠慢なんですけど。

うちの出版社では書店から未入荷の連絡があったら出荷状況を調べる前に即直送。もちろん送料無料。
だから儲からないのか。
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Unknown (Unknown)
2018-10-24 02:00:20
元書店のコミック担当ですが、売り上げが下がってるときほど返品率が上がりジリ貧になっていくという状況、私も勤務一年目に体験しました。
不幸なことに、このブログ主さんのような書店員の目利きに賭けてくれる取次ぎ担当に恵まれなかったので、苦しい状況はしばらく続きましたね。。。
本部とマネージャーの過酷な要求に潰されて辞めてく社員も居ました。
書店にとって必要なのは全国の売れ筋ではなく自分の店の売れ筋ですね。それは書店員が掘り起こさないといけないものですが、現実は年々増える業務に忙殺されて、取次ぎの配本をそのまま棚に並べるだけの、棚貸し屋みたいになっちゃってますね。
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