道中,下りの人たちとすれ違っていきます。休憩していたところで,降りてきた人が「アイゼン(雪山登るときに靴に履かせるスパイクみたいな物)持ってます?」と聞いてきました。なにやら,上には雪渓があって,そこを登るのでアイゼンがないと登れないというのです。やばいなあと思いながらも,ま,いいかと思ってそのまま登っていきました。
しばらく平坦な道が続きましたが,白出沢の滝の上部に出てきました。ここでいったん休憩です。沢から上の方を見るとこんな感じで,どこが道か分かりません。先頭を歩いていた510は(ここでどこが道だろう?)と目印を探していました。しかし,萩野氏が「こっちでええんちゃいますか?」と沢をそのままあがり始めたんです・・・。
この沢です。岩ばかりで道無き道といった感じ。大きい岩でも結構ごろごろと崩れて足場はかなり悪い状態。1m登ると50cm崩れるといった感じで登り進めていったわけです。とにかくむちゃくちゃえらい。こんなに足場が悪くて道もないし登りにくいところは今まで経験したことがありませんでした。
さすがの萩野氏も休憩ではへばって口あけて寝てました。虫入ってきそうです。
・・・と,ここから登ること約4時間。登れど登れど見えてくるはずの穂高岳山荘が見えてきません。おかしいおかしいと思いながらも,登るしかないと思って登っていました。
つらくとも,これがルートだからしょうがないと思って登っていくしかありませんでした。
途中で見つけたウイダーインゼリーのゴミ
これだけが,我々にこの道が登山道であると思わせてくれるただ一つの手がかりでした。
しかし,先頭を行っていた萩野氏から「道じゃないですっ」との叫び声。
そう,やっぱり違っていたのです。気づいたのが5時半頃だったでしょうか。瞬間的に「ヤバイ」と思いました。何しろここは山です。電灯なんて無いので日没を迎えれば真っ暗。そして,いつもなら持ってきている懐中電灯を,このときに限って忘れたことに気づいたのです。この前日,隣の北穂高岳の方で,滑落して亡くなった人がいたと言う記事が,新聞やテレビで伝えられていました。山道は危険だらけなのです。
4時間登ってきたところ,どれだけがんばっても2時間はかかるだろう。間違えた場所まで戻る頃は7時頃,暗くなる前に登山道に入らないと,ホントに迷ってしまう。もうあえて滑りながら,石の転がりを利用しながら急ピッチで降りていきました。滑りすぎて転倒もありました。体には細かい傷がついていきますが,そんなことにかまっていられません。
思えば,おかしいところが何カ所かあるのです。
①この道を歩き始めてから全く下ってくる人とすれ違わなくなった。
②登山道には必ず指導標(こっちに行けよという目印)があるはずなのに全くない。
③「雪渓を歩くからアイゼンがいる」と言われたほどなのに雪渓に出くわさない。
④ひたすら東に向かっていく道のはずなのに,途中,萩野氏のコンパスで「今北に向かってます」と言われてもそのまま進んでしまった。
⑤登山道には似つかわしくない道無き道。
おかしいところがあると思いながら,ウイダーインゼリーのゴミによってこの道は正しいと信じた我々は,足を止めることなく進んで行ってしまったことに,今回の登山の大きなミスがあったのです。
山を下りながら,そんな反省と,これからの行程をどうするかと言うことを考えました。・・・510とゆうkingの持っている水はあとわずか。萩野氏の水も,たかがしれているだろう。体力的にもかなり消耗しているし,再び分かれ道まで戻って正規の道を見つけて登っても,4時間かかる。おそらく夜の10時頃につけば早いぐらいだろう。いや,雪渓もあるし,登れないかもしれない。・・・
ここは勇気ある撤退しかない。穂高平小屋まで戻ってそこで泊めてもらおう。おそらく9時頃になるだろうが,その方が安全だ。
その意見を2人に伝え,撤退へと向けて再び下山を開始したのです。
しかし,辺りが暗くなってきて,下山ルートを見つけるのも困難な状態になってきました。右よりのルートをたどり,それっぽいところを萩野氏がかろうじて持ってきた安っぽい懐中電灯で照らしながら降りていきました。
右寄りに足を進めながら,ようやく下山ルートに入ったときにはもう真っ暗でした。たった一つのしょぼい懐中電灯を頼りに3人が山を下りていきました。1時間ほど降りたでしょうか,再び問題発生!再び沢に出くわしました。ところが,その沢からどうやって降りたらいいのか道が分からないのです。懐中電灯であたりを照らしても道らしいところが見つかりません。
とりあえず,猛烈にう○こがしたくなったので,登山道の脇をトイレとしました。まあ,言ってみれば野グソなんですけどね。
このまま穂高平小屋を目指すのも危険が伴うと判断し,ここで野宿を決定しました。到着して時刻を確認したのが8時半。動いていて体が温かいうちはいいのですが,何しろ夜は冷えます。速攻で着替えをして,長袖シャツを着て,今年買ったばかりのカッパを着ました。とりあえず食糧と言うことで,持ってきたチョコレートをかじって過ごしました。そうこうしているうちにうとうとして寝てしまいました。
これが3人の寝た場所(翌日)。沢の岩陰で風を防げる場所と座り心地のいい場所を見つけました。
510のベッドです。夜中,えらい寒くなって目が覚めるとゆうkingも目が覚めてました。時間を聞くと12時半。山の夜がやってきました。上流部には雪渓があり,上の方からゆるい冷たい風がときどき吹いてきました。これがえらい寒くって,顔などの肌にあたるのが非常につらかったです。足首から先は完全に冷え切って,時々足首を動かしていました。手も,軍手もしているのですがかじかんできて,自分で手のマッサージをしましたがダメでした。
ふっと上を見ると,ものすごい。どれが星座か分からなくなるほどのが夜空に輝いています。天の川も白く輝き,怖いくらいです。時々流れ星がすうーっと夜空をかすめていきます。「どうか我々を助けてください」としか祈ることが出来ません。
ぶるぶる震えながら,眠れない夜を過ごしました。夜中,2時頃だったかな,鈴の音が近づいてくるので目をこらしてみていると,一人の登山者が懐中電灯を持って登っていきました。こちらに気づいていたと思いますが,お互い声をかけませんでした。
ゆうkingのベッド。彼もやはりデリケートで,寒くて寝れなかったみたいです。登山初体験なのにいきなり遭難とは・・・。さんざんな目に遭わせてしまって申し訳ないです。
萩野氏のベッドです。えらい寒かったのに,いびきかいて寝てました。どこでも寝れるうらやましい体です。
午前4時過ぎ,あまりの寒さで体の芯が冷えてしまったので,お湯を飲もうとごそごそしていると,2人も起きました。たき火をしようと言うことで,近くから木を集めてファイヤーしました。写真はその跡です。えらく暖かくなってきました。初めからこうすりゃよかったと思いながら木をくべていると,うとうとして寝てしまいました。そのまま朝を迎えました。510の登山経験の中で初めての遭難でした。
2日目をどうするか・・・。
①勇気ある撤退。
②不屈の闘志で登山再開。
そして朝,ゆうkingは初めての登山で遭難ということでかなり参っていましたが,我々のライフカードは②を選びました。思ったより体力は回復していたのと,飲料水が思っていたより残っていたので,トライの余地があるとみました。
翌朝,例の迷ったところに出くわしました。雪渓を目指して沢を進みました。よーく見ると,向こうの方に赤い目印が!!やっぱあるんです。それを見つける前に手当たり次第進んでしまったところに今回の甘さがありました。こうして,再び正しい道目指して歩みを進めていくのです。