快読日記

日々の読書記録

「安部公房とわたし」山口果林

2013年08月05日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《8/4読了 講談社 2013年刊 【手記 安部公房】 やまぐち・かりん(1947~)》

やっぱりそういうことだったのかー。
かなりせきららな、これが書ける範囲ギリギリなんだろうと思わせる告白本で、正直なところ驚きました。

18歳で、23歳年上の安部公房に誘われたら、そりゃはまるわ~。考えただけでクラクラする。
終始、「安部公房」とフルネームで呼ぶ、その気持ちもなんだか分かる。
師であり、恋人である、その絶妙な距離感が(二人はほとんど衝突しない)、男にとっては居心地いいだろうなあ。

そして、若い頃の山口果林の写真、これが真知夫人に似てるんですよね~、なんだそれ、そもそも好きなタイプの女で、加えて、娘みたいな歳だから、真知夫人のように芸術家同士!対等!ってならなくて楽チンなのか!っていう。
なんかこう、安部公房ふつうの男じゃん!みたいな印象で、ちょっとモヤモヤした。

資料としては、安部公房が他作家をどう評価していたかとか、その死因となった病気のこと、闘病のことなど、一人娘ねりさんが書いた「安部公房伝」では触れられていなかったこともよくわかります。

それからこの本は、安部が離婚できなかった理由を、ノーベル賞をもらうまではスキャンダルはご法度、という出版社の意向だといっています。
山口果林としてはそう信じたいだろうけど、やっぱり安部公房が真知夫人を手放せなかったってのが真相なんじゃないかと思うんです。

何回か、山口果林vs安部真知の修羅場が再現されていますが、どうしても真知夫人の煮えたぎるような苦しみの方に同情してしまう。
安部公房が亡くなって8ヶ月後の月命日にあとを追った夫人のせつない執念みたいなものを感じます。
そして、「愛人」と呼ばれたこの人の執念(記録を残してやる!という)の方はこの本に結実したわけです。
壮絶だ。


それにしても若い頃の山口果林はものすごくかわいい。
野性的で色っぽくて。
「果林」という芸名は安部公房がつけたそうです。
本名は「静江」。
もし安部公房と結婚してたら「あべしずえ」になるとこでした。

「安部公房伝」安部ねり


/「安部公房とわたし」山口果林