快読日記

日々の読書記録

「サザエさんの東京物語」長谷川洋子

2015年06月20日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《☆☆☆ 6/5読了 文春文庫 2015年刊(2008年に朝日新聞社から刊行された単行本に書き下ろし2篇を加えて文庫化) 【日本のエッセイ 手記 長谷川町子】 はせがわ・ようこ(1925~)》

「サザエさんうちあけ話」や「サザエさん旅あるき」などのエッセイ漫画を読むと、長女まり子さんやお母さんに比べて出番が少ない三女洋子さんの手記。

最初は町子作品の副読本くらいのノリで、「このエピソードはあれに出てくるやつだ」なんてのんきに読んでたんですが、大学進学を控え、数専科を希望した洋子さんに町子がダメ出しをして、無理やり国文科に変えさせたあたりから、「あ、ちょっと違うかも。これは真剣に読まねば」というかんじになりました。

女性ばかりの長谷川家で、洋子さんは冷静に、母親や姉たちと少し距離を保って暮らしていたという印象です。
一方、自分たち三姉妹を「串だんご」と呼んだ二人の姉の密着ぶりは想像できます。
自分が思うことは姉も(妹も)同じように考えてるに違いない、という絶大なる安心感。
親子とも夫婦とも友達とも違う、姉妹独特の関係かもしれません。
気楽で居心地がよく、絶対裏切ることのない心強い味方です。
しかし、洋子さんは串だんごの3個目になることにずっと小さな違和感を持っていた。なじめていなかった。

還暦近くになった彼女が二人の姉と別れる場面は比較的サラッと書かれているけれど、こここそがこの作品のテーマだと思いました。
激しい気性の長女まり子さんは、洋子さんの決断を最後まで許さなかったそうですが、長谷川町子はどう感じていたのか、とても気になります。
半生を振り返ったエッセイ漫画には、芯が弱そうで本音が見えない女性として洋子さんが描かれている気がします。
本来は理系で理知的な妹にいまひとつ(まり子さんに対するような)一体感が持てないままだったのではないか。
洋子さんの“自立したい”という気持ちも、まり子・町子姉妹の寂しさも、どちらもよくわかるだけに胸が痛む1冊なのでした。

/「サザエさんの東京物語」長谷川洋子