快読日記

日々の読書記録

「こけつまろびつ人生」玉川スミ

2012年10月09日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《10/6読了 善文社 1995年刊 【自叙伝】 たまがわ・すみ(1920~2012)》

先日92歳で亡くなった漫談家・玉川スミの自伝。
3歳で売られてから14人も親が代わった、という話は有名ですが、特に子供時代の苦労といったら想像を絶する過酷さでした。
スミちゃんの苦労が100としたら、おしんは28くらい、わたしはゼロ(比べるな)、というかんじか。

まず、出生から驚きました。
実父はあの雲右エ門(志賀直哉「清兵衛と瓢箪」にも名前が出てくる当時きっての人気浪曲師)一座の浪曲師で、二代めは間違いなしと目された人物なんだそうです。
この実父が、少女歌舞伎・市川牡丹一座に当時27円で娘を売るまでの顛末からしてもう切ないんですよぉ。
酒浸りの実父に、このおじさんのところに行くか、と聞かれて「それでお父ちゃんがお酒を飲めるならいいよ」と答えるところなんてうるうるきます。
芦田愛菜主演で映像化してほしい。

スミちゃんは(大げさではなく)生まれたときから苦労の連続です。
あまりにもいろいろあって、読みながら揺さぶられすぎてへとへとになった。
…と思ったらまだ6歳だったりします。
どんな人生なんだ。
8歳で貧乏一座の座長格になって質屋通いなんて!
40を過ぎた今の私でも務まりません。

その数奇な運命だけでなく、頭と勘が良くて、度胸があって繊細で、愛嬌たっぷりで生真面目な人物そのものの魅力でも読ませます。

こんなエピソードも。
ある子供がいない夫婦がスミちゃんを自分の子のようにかわいがってくれるようになって、2年後、待望の赤ちゃんが生まれます。

「「あんたの弟よ」といわれ、その可愛らしい寝顔を見たとき、私は〈ああ、もうこの家にきてはいけない〉と、心のなかで思いました」(103P)

泣けます。
この感覚、今の子供にもわかるのかなあ。
いや、わからない方が幸せってことかな。

昔、末廣亭でスミちゃんの舞台を観ました。
ちょうどこの本が出たころかも。
言葉がすごい豪速球で活きがよくてビシビシきました。
毒舌で、チャーミングで、本当におもしろかった。
それが最初で最後になってしまったけれど、幸運でした。
長生きしてくれたおかげですね。

ご冥福をお祈りします。

/「こけつまろびつ人生」玉川スミ
■ブログランキングに参加してます。乞う1クリック!■