快読日記

日々の読書記録

「もうひとりのわたし」岸田今日子

2013年03月31日 | 日本の小説
《3/30読了 青土社 1988年刊 【日本の小説】 きしだ・きょうこ(1930~2006)》

とうとう読んじゃった。
岸田今日子唯一の長編小説(というほど長くはない)。

語り手の女優Kのもとに、ある女性から電話が入る場面から話は始まります。
彼女はKの同級生F子のお姉さんで、入院中のF子がもう永くない、Kに会いたがっている、という連絡です。

KとF子、2人の人生がからまるように描かれるその世界は、もうなんというか蜜がたっぷり塗られた壺の中みたいで、静かで甘くて湿っていて濃くて薄暗い。
そして、読み始めたら最後、絶対に逃げられない。

「Kちゃん。こうしてその日あたしは、痛いとか痒いとか、そして暑いとか寒いとか名付けられたものとはちがう感覚を、自分が持っていること。それはこれからどんどん大きくふくれあがっていって、いつかあたしを支配することになるだろうって、ぼんやりとわかったの」(54p)

女って怖い。
そして、不思議。
吐き気がするほど気持ち悪いのに、酔っぱらうくらい美しい。
なんだか手に負えないなあ。

今年のベストはこれに決まりそうです。まだ3月ですが。

天は二物を与えずと言うけど、岸田今日子にも二物を、特に演技の才能は与えないでほしかったです。
そしたらほら、専業作家としてもっとたくさん作品を残してくれたかもしれないじゃないですか。

/「もうひとりのわたし」岸田今日子