快読日記

日々の読書記録

「Amazonで変なもの売ってる」谷山浩子

2014年09月25日 | 日本の小説
《9/21読了 イースト・プレス 2014年刊 【日本の小説】 たにやま・ひろこ》

「「ねえハルちゃん、これ何かな…………」
PCのモニターをじっと見つめて、姉のミカルがつぶやいた。
読んでいた雑誌から目を上げて、ハルルは姉のほうを見た。
姉はいつものおっとりとした、あんまり感情のこもっていない声で、こう言ったのだ。
「Amazonで変なもの売ってる」」(8p)

ファンタジーというと、奇想天外で話が外へ外へと広がるイメージがあって、作者が勝手に(そりゃ作者だから)提示する設定について行けなくなるのでとても苦手。
でも、谷山浩子に限ってはそれがないんですよねー。
なんでだ、と読みながらつらつら考えてみるに、
この人のファンタジーって自分の“外”に展開する異世界ではなく、“中(あるいは奥)”にすーっと深く広がるもんだからなのではないかと。
作中、何度か出てくる“フィルター”という言葉にも、結局世界は“私”の“解釈”でしかないのだという清々しさと諦念(透明で明るい絶望)を感じるし、例えば姉ミカルが鏡の中の占い師と向き合う場面にも、真に不思議なものとは人間の“中”にこそあるのだというつぶやきが聞こえるようです。
こういう、心の井戸の底の底まで何万キロもすーっと降りていける能力こそが谷山浩子のすごいところであり、怖いところ。つまり大好きなところ。

そして、今回はそこに“家族”っていうモチーフもからまって、すばらしい所なんて1つもない娘が母に許容されるとか、姉妹のおもしろい関係とか、なんだか厚みが感じられる。

ファンタジー形式をとりつつ、ただの奇想なんかじゃない。
しかし、核心は意外と人間の生々しくエグい部分だったりするので、ファンタジーという甘いコーティングは絶対必要なんですね。
これは、よく考えたらものすごく恐ろしいことを、うそみたいに澄んだきれいな声で歌い上げる谷山浩子の曲と全く同じ構造だ。

セリフのうまさ、人物の絶妙なやりとりもいいスパイスになっていて飽きない。

そうそう。ラストのお父さん問題がまた怖い。きゃー。

それから表紙と挿画。ちょっとヤンソンみたいな雰囲気がぴったり。


/「Amazonで変なもの売ってる」谷山浩子