快読日記

日々の読書記録

「ネット私刑」安田浩一

2015年09月19日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《☆☆☆ 9/17読了 扶桑社新書 2015年刊 【ノンフィクション インターネット】 やすだ・こういち(1964~)》

特に未成年による殺害事件やいじめが原因の自殺などが起きると、加害者とその家族がネットで個人情報をさらされ、誹謗中傷を受けるというのがほとんど“慣習”になっています。
中には、全く無関係の人が“犯人”と決めつけられ、名前や顔、勤務先まで暴かれる“誤爆”なんてこともある。

本書は、こうした「ネット私刑(リンチ)」の被害者・加害者双方に取材しています。

読むに耐えない罵倒語を打ちまくる彼らは、実際に会ってみればその多くが普通より弱い立場にいて、むしろ気が弱い人たちのようです。
この“実際に会ってみる”って大事ですよね。
例えば、在日コリアンに対する中傷・脅迫書き込みを繰り返した少年2人がそれぞれの父親とともに謝罪に訪れる場面など、あーこういう人いる!と思うから余計に気が滅入る。
パソコンとかスマホとか、そういう道具は日々進化してるけど、使ってる人間は何百年、何千年もそのまま、いや、むしろ劣化しちゃっているのかもしれないですね。

毎日モニターの上で起きているこうした“私刑”に対し、生身の当人を探し当て向き合うやり方の効果で、とにかく生々しいルポになっています。

冒頭、筆者自身のいじめ被害・加害両方の経験が語られます。
“やられる痛み”と“やる快楽”、そして“やることによってはまり込む暗闇”をよく知っている筆者だからこその力のある1冊だと思いました。

「少なくともネットはときに凶器となり、人を傷つけ、何よりも最終的には自分自身を暗闇に追い込む道具でもあるという認識を、しっかり叩き込まなければいけない」(181p)

/「ネット私刑」安田浩一