快読日記

日々の読書記録

「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」北原みのり

2013年05月27日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《5/26読了 朝日新聞出版 2012年刊 【ノンフィクション】 きはら・みのり(1970~)》

「別海から来た女」(佐野眞一)の副読本のつもりで読み始めた、なんて言ったら失礼な力作。

「佳苗のことは、まるで分からない。だからこそ、木嶋佳苗という女、『平成の毒婦』と呼ばれた女に、出会いたかった」(7p)
「『毒婦』と呼ばれる女と、私たちは、どのくらい離れているのだろう」(55p)

そんな動機なだけあって、佳苗自身にどれだけ迫ったかという点では、「別海」よりもこちらに軍配を揚げたいです。

佐野は「事件」を追い、北原は「人」を追った、ってかんじです。

法廷での佳苗の風貌や声やしぐさ、佳苗を知る人たちが語るエピソードといった細かい描写をこつこつ重ねるやり方がとても効果的。
法廷で、ブスだ殺人者だという言葉には平然としている佳苗が田舎者扱いされたときに見せた表情。
午前と午後で衣装を変え、ハンカチを変え、不利になるとわかっていてもしっかり髪を巻いて出廷する様子。
松田聖子や小倉千加子が好きだと書いた高校時代の作文。
整形よりベンツ、ダイエットより料理学校という選択。
そして、父親の四十九日に手製のアップルパイをみんなに配った佳苗の母親。
佳苗と母との確執。

取材を受けた人たちの多くは重なっているはずだけど、こっちの方が数段生々しいし、「別海」には書かれていなかった怖い逸話(逸話ではないが)満載です。
例えば、被害者からカルティエのブレスレット(85万円)をもらったことはどちらの本にも書かれていますが、佳苗がそれを両手にして、なおかつ髪にフェラガモの髪飾りをつけてたという話には、湯水のように金を使ってもやっぱり垢抜けない彼女の滑稽さやコンプレックスが透けて見えて、こういうところは女ならではだなあと思いました。
80歳になってもネットで女を探していた被害者Aさんの行動力と好奇心を評価する北原に対して、佐野眞一はそこに悲哀や孤独を見ています。
被害者や検察に対しては佐野本の方が詳しくて厳しめ。

同じ事件を、加害者に近い立場(年齢性別が。佳苗は74年生まれ)と、被害者に近い立場の筆者が書くってなかなかないですよね、そういう意味でも両方読んでよかったです。

では、佳苗について何がわかったかと言うと、読めば読むほどわからない。
むしろ、本を読む前の方が「美人なら警戒するけど、ブスだとかえって信頼しちゃうかもね~」なんて簡単にわかった気でいました。

「佳苗は、何が、欲しかったのだろう」(75p)

金品を搾取するだけでは足りなかったのか。
殺さなければならなかった理由は何なのか。
奇しくも両者が感じた佳苗の光のない洞穴のような目、その奥を知ることは不可能なのか。

結局のところはわからない、ってことがわかりました。
きっと佳苗本人に聞いてもわからないと思います。

/「毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記」北原みのり