快読日記

日々の読書記録

「松竹梅」戌井昭人

2015年03月04日 | 日本の小説
《☆☆☆ 2/20読了 リトルモア 2012年刊 【日本の小説】 いぬい・あきと(1971~)》

松岡、竹村、梅田3人の小学生は、クラスでの存在感ゼロ。
教室の隅っこのホコリみたいなものらしい。
だから、いわゆるクラスカーストなんかとは無縁で、彼らはまぶしいくらい勝手に生き、人生を切り開いていく。
野暮な解説がいっさいないのも気持ちがいい。
3人が人生を手に入れ、まだ小さい足で踏みしめていく姿もいい。

でも、この作品に陰影をもたらしているのは、いつのまにか現実にがんじがらめにされて“その一歩がなかなか踏み出せない”人たち(近所の中学生林田、3人の担任半田)だ。
特に林田みたいな子は現代の“捨て子”であり、松竹梅の“もしかしたらこうなっちゃってたかも”な部分を一手に引き受けた形になっている。

では、松竹梅はなぜ林田にならずに済むのか。
3人を囲む大人(松岡は母、竹村は父、梅田は姉)が“普通の大人”だからなんではないか。
毎晩店の焼きうどんを食わせたり、ギャンブル好きだったりするけど、彼らは現実的で優しくて、子供を精一杯応援はするけど、過度な期待をかけたりしない。
彼らはあっさり遠景のように描かれていて、そこがまたうまい。

脇役の素晴らしさがこの小説を傑作にしている!と確信。

そしてなんと言っても梅田の姉ちゃんがかわいい。
彼女には幸せになってもらいたいです。

/「松竹梅」戌井昭人