快読日記

日々の読書記録

「誘蛾灯 鳥取連続不審死事件」青木理

2014年03月06日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《3/5読了 講談社 2013年刊 【ノンフィクション 上田美由紀】 あおき・おさむ(1966~)》

木嶋佳苗事件とほぼ同時期に公になった鳥取連続不審死事件。
佳苗と美由紀、年齢がほぼ同じ(佳苗は1974、美由紀は1973年生まれ)で、どちらもお世辞にも美女とは呼ばれない太った女。
なぜあんな女に?という世間の反応も含めて記憶に新しい事件です。

木嶋佳苗についてはさまざまな本も出ていて、ウォッチャーも多く、最近では本人がブログを始め、支援者も複数いるみたいです。
一方、美由紀の方は…。
というわけで、読んでみました。

立件されているのは2件の強盗殺人ですが、美由紀周辺の人物の不審死は6件。
その中には新聞記者や警察官もいて、だらしなく口をあけたままの美由紀の顔写真といまいちつながらない。
しかし、筆者が鳥取に向かい、美由紀が勤めていたスナック「ビッグ」を訪ね、徐々に取材が進むにつれて、彼女の奇妙な魅力と被害者たちの寂しさや苦悩が少しずつ伝わります。
彼らは美由紀と知り合った途端にどっぷり溺れ、きれいな奥さんや子供を捨てるんです。
“女子力”“恋愛力”では佳苗を上回っているかもしれません。

ところで、鳥取県というのは1人あたりの所得が全国最低レベル、夫婦共稼ぎが多く、軽自動車の保有率とカレールウやインスタント麺や冷凍食品の購入量が高いんだそうです。
疲弊しきった日本の地方の暮らしが見えてくるデータです。
そんな土地の、さらにずーっと底辺で生きていく人たちのこの話を読んでると、この事件が中央マスコミの興味を引かなかった理由がわかる気がしました。
ひとことで言えば、目を背けたくなる世界なんです。
ブランドものに囲まれて暮らしていた佳苗に対し、量販店で低価格なものを大量に買い込んで住居はゴミ屋敷同然だった美由紀。
自己演出に腐心していた佳苗と比べて、あまりにも知的レベルが低そう(に見せて男を癒やすというテクニックかも)な美由紀。
5人もの子供を抱え、場末中の場末みたいなスナックで働く姿もつらい。
たとえば「ビッグ」(その名の通り太った女ばかりがいる店)に勤める29歳のマミちゃん(バツ5)が、常連客のおじいさんと結婚した理由「あの人には生活保護という決まった収入があるから」に眉をひそめてしまう、このいたたまれなさがこの事件のキモだと思いました。
気が滅入る事件だけど、田舎に住んでいる身としては「あるかも」と思わせる話。

ブログによると佳苗もこの本を読んだらしい。
そして、美由紀は佳苗のことをかなり意識しています。
体型以外の大きな共通点は“大嘘つき”。
中でも、2人とも架空の人物を使って相手を混乱させたり操ったり(美由紀の方はあまりうまくいってない)しているのはちょっとおもしろい。

最後にもうひとつ。
事件の真相について。
睡眠薬でぐったりしている大の男を美由紀が1人で運んで殺害するなんて、やっぱり不自然だとわたしも思いました。
真犯人は本書も示唆するあの人物なのか。
今後の裁判も注目したいです。

/「誘蛾灯 鳥取連続不審死事件」青木理