快読日記

日々の読書記録

「巡礼」橋本 治

2009年10月19日 | 日本の小説
《10/8読了 新潮社 2009年刊 【日本の小説】 はしもと・おさむ (1948~) 》

ゴミ屋敷って気になりますよね。
ワイドショーでその家主たちを見るたびに、フィクションでもルポでもいいから、彼らのこれまでの人生が書かれた本があれば絶対読むのにな~、なんてのんきに思っていたのですが、
なんと橋本治がやってくれるなんて~!!
ありがとう神様と言いたいです。

話はそのワイドショーの取材を受けるゴミ屋敷近隣の主婦たちの場面から始まります。
まず、浮かんだのは、なぜ橋本治はこんなことを知っているんだろう?という疑問と感嘆です。
だっておばさんの胸中をこんなにも的確に端的に書けるものでしょうか。
当人だってわからないよ~。
今更ながら、小説家ってすごいもんですね。

主婦たちのリレーに引き込まれていると、あっという間に家主にたどり着き、その半生が語られます。

自分は今すごい傑作を読んでいるという興奮に、何度も「読み終わりたくないから読むのをやめたい」というわけのわからない衝動に駆られました。
ラストシーンもたしかにすごいですが、
中年を過ぎた彼が「記憶の蓋を閉ざす」場面、つまり、思い出しかけた「なにか」を封じ込めたときの、
「それを分かれば涙が出る(196p)」という一節に不覚にも泣きました。

記録体の文章で、一人ひとりを丹念に描くことで、「歴史」を書き切ることに成功しているような気がします。