快読日記

日々の読書記録

「誠実な詐欺師」トーベ・ヤンソン

2009年06月01日 | 翻訳小説
《5/29読了 トーベ・ヤンソン・コレクション2 冨原眞弓/訳 筑摩書房 1995年刊 【翻訳小説 フィンランド】Tove Jansson(1914~2001)》

飼い犬に名前を付けない女・カトリは、唯一の肉親である弟・マッツと暮らしている。
彼女は二人の生活のため、近所の"兎屋敷"に住む画家・アンナを狙っています。
アンナを騙したり脅したりするのではなく、その収入を倍増させ、誠実に、正当に報酬を得たい。


数字に強く計算に長けた、黄色い目のカトリという人物がとても魅力的。
少ない出番の割に印象深いのが、カトリに徹底服従する犬です。

「服従するとは、だれかを信頼できると感じて秩序だった命令に従うことを意味します。責任からの解放です。物事が単純になるんですよ」(137p)

生き物が内外に抱えざるを得ない「複雑さ」を知っているからこそ、犬とのそうした関係を貫こうとし、「数字」という明確で揺るがないものを武器に、あるいは支えにするカトリ。
そして、お金や契約に無頓着なアンナ。
正反対のようでそっくりな二人の女が互いに侵蝕しあう、緊張感に満ちた小説です。
心の奥を掻き乱されちゃって、読後の不安感といったらないですよ~。まいったまいった。
訳者の後書きで少し落ち着き、気持ちの整理をつけました。