『働く理由~99の名言に学ぶシゴト論。』を既に読んでいる人が、『新! 働く理由~111の名言に学ぶシゴト論。』を読もうかどうか、あるいは買おうかどうかを迷ったときの参考にしてもらおうってことで、『働く理由~99の名言に学ぶシゴト論。』(以下『99』と略す)と『新! 働く理由~111の名言に学ぶシゴト論。』(以下『111』と略す)の違いというか、進化の有り様をまとめた。
名言+解説という形式は同じです。また、装丁のデザイナーは寄藤文平さんで同じです。
では、何が違うのかについて、以下のような感じです。
●出版に至る経緯
2007年に出した『働く理由~99の名言に学ぶシゴト論。』はおかげさまで22刷り、一六万部を突破した。一年目にものすごく売れただけでなく、その後もじわじわとロングテールで売れ続けて今に至っている。おまけに、2017年に出した『ものの見方が変わる 座右の寓話』もよく売れた。
そこで、「2007年から12年が経過したことだし、最近の動きを取り混ぜながら『99』の改訂版を出しませんか」という話を出版社からもらった。
原稿を書き始める前は、99の名言のうちの20か30ぐらいを入れ替えつつ、「働くこと」に関する最近の動きを取り混ぜて、4ヶ月ぐらいで書いてしまおうと思っていた。
ところが---、である。
この12年間に起きた出来事を拾ってみると、過労死、ブラック企業、格差社会、人生100年時代、副業・兼業の解禁、人手不足と転職の増加、ホモ・デウス(神のヒト)へのアップグレード、GAFAの躍進などなど、いろいろあることに今さらながら気がついた。
また、書棚にある「働くこと」に関する本を読み返しつつ、論文なんかも新しく読んでみたりしながら、最近のベストセラーである『ワークシフト』や『転職の思考法』、『働き方の哲学』なんかを読んでみると、いろいろと新しい発見があって、考えることやまとめるべきことが多く出てきた。
その上であらためて『99』を読んでみると、気に入らないところというか、直したいところというか、疑問点があれこれ出てきた。
それで、どの名言を残してどの名言を入れ替えるかを考えつつ、以前の文章を書き直したり、新しく文書を書き始める作業に取りかかった。結果として、大幅な加筆と訂正ということになり、9ヶ月ぐらいの時間がかかってしまった。
●名言の数
『働く理由』(2007年)で取り上げた名言は99です。このうちの41が生き残り、あらたに70の名言が加わって、名言の数は111になった。
ただし、生き残った名言も、そのままの名言もありますが、前後の文章を補って前のよりも長くなった名言もあります。たとえば、宇野千代の名言(『111』ではNo.40)です。
『99』では
厭々する労働はかえって人を老衰に導くが、 自己の生命の表現として自主的にする労働は、その生命を健康にする。
でした。
『111』では
「若さ」を保つ方法の重要なものとしては、私の考えでは、 一に精神的にも肉体的にも自ら進んで労働すること、 二に出来るだけ学問芸術の世界に遊ぶこと、この平凡な二箇条を挙げたい。 厭厭する労働はかえって人を老衰に導くが、 自己の生命の表現として自主的にする労働は、その生命を健康にする。 学問芸術は人に愛と美と真を指示して、人の労働に正しい目標と、 それ自らの内に満足する享楽を与える
となってます。
No.66のモーパッサンも同じように、名言の文章量が増えています。こういうのがけっこうあります。
●ページ数
『99』は236頁、『111』は318頁というように大幅に増えてます。これでも、削りに削ってここまで何とか減らしました。
●アランとラッセル
三大幸福論と言えば、アラン、ラッセル、ヒルティです。
『99』を書いた時点(2007年)ではアランが私のお気に入りでしたが、『111』を書いた時点(2019年)ではラッセルが私のお気に入りになりました。『111』では数回、ラッセルの幸福論の中味が登場します。
●微妙なニュアンスの違い
『99』でも『111』でも「石の上にも三年」ということわざを引用しています。しかし、この言葉を引用した後に、何をどのように書いていくかが微妙に変化をしている。
なぜ変わったか? 2007年時点(『99』)と2019年時点(『111』)では時代状況が異なっているからで、2019年時点の特徴として
一つは、売り手市場や景気がよいというということもあり、転職が当たり前になったこと。定年まで一つの会社で勤め上げようと考えている新入社員は少なくなった。副業や兼業も原則OKの時代になりつつある。
もう一つは、人生100年時代というフレーズに象徴されるように、80歳ぐらいまでいかに社会と関わりを持ちつつ働き続けるのかという問題意識を多くの人が持つようになったことだ。同じ企業の同じ職種で20歳から80歳まで勤め上げることは想像しづらい。
二つの状況の変化によって、『99』ではどちらかというと「安易に会社を辞めてはだめだよ」的な書き方が主だったように思うのだが、『111』では「安易に一つの会社、一つの職業に安住していてはだめだよ」的な書き方が色濃くなっているように感じる。まあ、ケースバイケースなのだが・・・・・・。