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「タイムバール」少年探偵団の時代

元少年探偵団、現ダメ社長が「記憶と夢」を語ります。

坂道の掟

2008年04月18日 | Weblog
靖国坂(九段坂)の続きです。この坂を下った先の古本屋街で「幻の本を探す楽しみ」なんて言うと「知的」に聞こえますが本当は坂道を下ること自体が楽しいのです。ジェットコースターで「ギャッ~!」と叫ぶあれです。これは剥き出しのバイクでなければ味わえない楽しみです。秘密は信号です。如何なる理由かこの坂の信号はあるタイミングで次々と青に変わって、靖国神社から古本屋街までこの長い坂を一気に駆け下ることが出来ます。勿論、4輪車では無理で出足のいいバイクだけが成し得る「快挙」です。何かの手違いで東京都の知事になったら、歩行者天国ではなく、自転車天国を設けて東京中の坂道を開放します。勿論信号はずっと青。どこまで距離を伸ばせるか、なんて競技もハイカラです。それほど東京には魅力的な坂が沢山あります。

因みに東京23区だけでも名前が付いた坂道が650以上もあります。紀尾井坂、山王坂、行人坂、霊南坂、南部坂、魚籃坂、神楽坂、団子坂・・・なんて名前を聞いただけで空想少年はゾクゾクします。もしタイムトラベルで真っ先に行くとすれば老中「田沼意次」が元気な頃の江戸の坂道、それも行灯に火が入る時分です。不逞浪人や鼠小僧が物陰に潜み、文人や粋筋がそぞろ歩き、両側の土塀や黒々とした森には妖怪共が群れています。近くの料亭では「越後屋」が誰かを饗応しているようです。「ふん!俗物共め!」なんて言いながら屋台で安酒をあおります。そんな想像だけで終わらせるのがもったいないくらい「良質な坂」に恵まれているのが江戸東京です。何しろ日本坂道学会なんてものまであるくらい(タモリが副会長です)坂が好きな日本人ですが、ある意味幸せな民族です。侵略と虐殺の歴史を持つヨーロッパ、特に地中海では殆どの街が崖や山の上にあるのに、途中の坂には名前があるのは稀です。

敵を見たら大急ぎで急坂を駆け上って城塞の中に逃げなければならないし、敵は重い鎧を身につけて息を切らしながら急坂を上って城壁に迫ることを何度も繰り返していた筈で坂に名前をつける余裕も発想もなかったのかも知れません。一方、江戸の坂は勾配が20度を超える坂は少なく、適度に呼吸を荒くして坂を上りきった時に振り返る町並みの風情は今では味わえない「官能」だったに違いありません。いっそ皇居(江戸城)周辺を「旧市街地」として江戸の街を再現する国家プロジェクトを組めば不景気なんか吹っ飛ぶ筈ですが、田舎者が大半を占める今の政治環境では無理な相談かも知れません。せいぜい長い坂道を駆け下りながら「東京には空がないな」なんて呟きながら事故に遭わないようにするのが精一杯です。

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