【緯度経度】ワシントン・古森義久 ハーバード大学の「政治偏向」

2006年04月24日 | 国際
[産経新聞 2004年11月06日 東京朝刊]

ハーバード大学中東言語文明学部のルース・ワイズ教授は自他ともに認める保守派のブッシュ支持者である。フセイン政権を倒すイラク戦争にももちろん大賛成した。イディッシュ語と英語の比較文学を専門とするこの女性学者は今回の米国大統領選挙ではブッシュ・チェイニー再選委員会に寄付をした。すると間もなくハーバード大学の学生新聞の記者から連絡を受けた。 「一体、なぜそんなことをするのですか」学生記者はこんな詰問を浴びせてきたという。米国連邦選挙委員会の規則では個人が二百ドル以上の政治献金をした場合、 雇用の情報を開示することが義務づけられている。だからワイズ教授の寄付もすぐ公表されたわけだ。
「一体、なぜ」という反応の理由はハーバード大学の教職員で保守派というのはきわめて珍しいからだった。学生記者が連絡してきた時点では同大学の教職員からの民主党ケリー陣営への寄付が合計十五万ドル、共和党ブッシュ陣営への寄付が計八千ドルだった。九十五対五というあまりに偏った比率なのである。

ハーバード大学はじめ米国の主要大学の教授陣が、政治的には民主党リベラル傾斜であることはすでに広く知られてきた。だが、ワイズ教授が集めた資料によると、今回の大統領選での寄付金額でみる主要大学教職員の民主党支持はコーネル大学が93%、ダートマス大学97%、エール大学93%、ブラウン大学89%だというのである。まさに聞きしに勝るリベラル偏向なのだ。ワイズ教授はこの現象を「ジョン・ケリー大学」という皮肉っぽいタイトルの論文にまとめ、十月下旬のウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿した。学園のリベラル偏向を「多様性を宣伝する大学社会のスキャンダラスなまでの画一性」と批判したのだった。同教授はこの論文で「私自身はリベラル派の同僚や上司から冷たくみられるだけで思想の自由を享受しているが、大学で私のような終身在職権がない助教授や講師、あるいは大学院生は保守派であることがわかると実害を被ることが多い」と指摘する。確かに「リベラル派のユダヤ人裏切り」など多数の著書があり、比較文学でも業績を積んで、いまは六十代の同教授には恐れるものはないのだろう。

だが同教授は自分より弱い立場の教職員らは別だとして、ハーバード大学で保守主義信奉を隠さなければ終身在職権を得られないという展望に耐えられず退職した女性の助教授や、イスラム問題をリベラルふうに教えることに反発して契約を切られた若手講師の「被害」の実例を紹介している。ワイズ教授はさらにハーバード大学がリベラルの反軍志向から学生向けのROTC(予備役将校訓練部隊)のキャンパスでの活動を禁じていることをも批判していた。さて選挙が終わった後、ワイズ教授に電話をかけると、ハーバード大学の政治傾向への考察を静かな口調で説明してくれた。「この大学には行政大学院などという現実の政治を教える部門があるのですから、教える側も政治の現実を客観的に反映することが大切です。 なのに教職員はリベラル偏向、反保守が圧倒的に多く、その偏向が大学全体のイデオロギー的圧力や知的威迫となって異論を許さない空気生んでいるのです」



(読者の声3)アメリカの大学のリベラル指向については、産経新聞11月6日付『緯度・経度』でワシントン古森義久さんがリポートしています。題して、「ハーバード大学の政治偏向」。
ハーバード大学の中東言語文明学部のルース・ワイズ教授は、自他共に認める保守派のブッシュ支持者である。彼が集めた資料によると、主要大学教職員の民主党支持は、コーネル大学93%、ダートマス大学97%、エール大学93%、ブラウン大学89%だという。リベラル偏向をワイズ教授は「ジョン・ケリー大学」という皮肉っぽいタイトルの論文にまとめ、10月下旬のウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿しました。
          (MK生、練馬区)


(宮崎正弘のコメント)数年前に一度、このメルマガにも書いたかも知れません。米国の大学が左翼に汚染されている現実は憂うるべき状況ですが、カリフォルニア州がとくにひどい。
理由はチャイニーズ・アメリカンの「活躍」です。ベトナム反戦当時はジャパニーズ・アメリカンが、新左翼と一緒になって反戦運動を展開し、その過程から「日系人強制収容所」の補償を勝ち取りました。それを見ていたチャイニーズ・アメリカンが、「南京」をからめて全米で反日運動を展開しています。
 こうした左翼の跳梁跋扈に比例して、もちろん保守学生運動も盛んです。ところが、カリフォルニアを筆頭に各地の大学キャンパスで左翼学生が、保守学生の新聞部部室を襲って保守新聞を燃やしたり、数々の狼藉、傷害事件も起きています。
 ヨーロッパに過激左翼運動が、いまのところ米国ほどひどく拡がらないのは、イラク戦争に政府が批判的で、直接、軍をおくっていない独仏が左翼学生運動のメッカだからでしょうね。
 同様に独仏、イタリア、オーストラリアで保守学生運動が盛んですが、欧州のマスコミも米国のリベラル偏向と同様に、かれらを「右翼」呼ばわりして、悪イメージの定着に懸命です。
かくして日米欧の三極は経済自由市場でありながら頭のなかで左翼という矛盾に取り憑かれているわけです。
 フランスの哲学者レイモン・アロンは、嘗て左翼、とくにマルクス主義を「知識人の阿片」と比喩しました。冷戦で西側が勝利したはずなのに、阿片は、いまも西側の偽知識人たちに蔓延しているのです。

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