数年前、いつも野菜を買いに行くJA直営店の花苗コーナーに、レンゲソウのポット苗がひとつだけ売れ残っていた。何か後ろ髪を引かれる思いがして、買って家の空き地に植えておいた。
〈れんげ草〉
ビリーバンバンの「れんげ草」がリリースされたのは1972年、20代の最後の年だった。その15年前の14歳の春、知り合いの人達の行楽に誘われ、休日に市内の中田島海岸へ行ったことがあった。メンバーの中に、2つ3つ年下の顔見知りの少女がいた。
一面のレンゲ畑の中で、無心にレンゲソウの花を摘む少女の面影が、中学生の私の胸に刻印された。その年の2月に肉親を失い、閉ざしていた私の心の窓に、春の陽光が射し込んだような気がしたのだった。
この曲がリリースされ初めて聴いた時、私の脳裡に15年も前のレンゲ畑の光景が蘇った。歌とはシチュエーションが全然違うのだが・・・
以来、レンゲソウの花を見る度に、頭の中でビリー・バンバンの「れんげ草」のハモリが流れ出し、サビの「♪黒い瞳で~♪ほほえんで~♪」のリフレインが響くようになった。
レンゲを摘んでいた少女とはその後会う機会はなく、歳月は瞬く間に過ぎ去った。30年後に偶々邂逅した時には、彼女は倖せそうな主婦になっていた。一言二言、ありきたりの挨拶の言葉を交わした。
だがその女性は、レンゲの花を摘んでいた往時の面影を遺しているように私には見えた。おそらく「れんげ草」のメロディと歌詞が、私の脳裡に常在していて、彼女の少女の時の面影を、涵養してくれていたに違いない。
レンゲ畑が急で速にこの国の田圃から消えていった時代背景のもと、この歌がリリースされていなかったら、15年前のレンゲ畑での感懐は、疾うに失せてしまっていたことだろう。
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