Taki's blog Part III

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桜の森の満開の下 その一

2006年02月18日 13時53分35秒 | Weblog

"Harry Potter and the Half Blood Prince"をやっと読み終えたので、ゆうけいさんお勧めで懸案だった"英語で読む「桜の森の満開の下」"を読んでみた。原書というか日本語版は既に読んでいたが、こちらは英語との対訳を比較しながらの英語勉強でもある。
産業翻訳を勉強してきた身としては、やはり文学作品の翻訳は難しいものだなぁ、というのが実感だ。何といっても両言語の文化的背景もあるし、それぞれの単語のニュアンスというのもかなり奥深いので、それをどう訳しているかというのは、僕には何とも評価し難い。とは言うものの、さすがというか様々な語や表現を駆使しての英訳は素晴らしいものだ・・・とは言うものの、中にはどうも腑に落ちなかったりすることもあるにはある。

全編を細かく見るほどの技量も余裕もないので部分的ではあるが、特に気になったのは、原作にある「四方」という語の訳である。
最初にでてくるのは多分、この本ではP.75、男が女を都へ連れて行く約束をしながら、その前に桜の満開の下へ行く場面:

花の下の冷たさは涯のない四方からドッと押し寄せてきました。
The chill below the flowers came in from all sides knowing no boundaries, covering and bearing down on him.

ここでは周囲全体という意味で「四方」を捉えてfrom all sidesとしている。この部分は小説のクライマックスである最終場面と密接に関係していく。男が幸せな気持ちを持ちながらかつてのように女を背負って桜の満開の下に入っていく場面、男は突然、女が鬼であると気がつく(P.135):

突然、どッという冷たい風が花の下の四方の涯から吹き寄せてきました。
Without warning a freezing wall of wind blew in below the trees from one end to the other.

小説では、類似した場面がそれぞれに重要な意味を含みながら繰り返されてクライマックスにたどり着くのだと思う。これは明らかにP.75と対をなしていると思うのだ。涯のない四方からどっと吹く風、という表現は現実にはありそうにない風であるものの、涯(はて)しない桜の満開の森の下、どことも見えない四方の涯から男にどっと向かってくる風という底知れぬ不気味さ、恐怖感を表しているに違いない。
だがこれをone end to the otherとすると、それは一方向に流れる凡庸な風になってしまわないだろうか。無論、a freezing wall of windという表現がそれを補っているのだが。

原作はさらに「四方」を続けて終幕へと向かうが、英訳はこれもそれぞれに異なっている。
背中の鬼を振り落とし首を締めて殺すと、それはやはり女であったと気がついた場面:

そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。(P.139)
This took place by the very center of the cherry tree forest. The boundaries of the forest were concealed by flowers and ahead was nothing.

彼は始めて四方を見廻しました。(P.141)
He looked all around him now.

日本語で「四方」という場合、周囲全体とはいうものの四という数字は同時に四方向を見るような語感があるような気がする。これをそのまま英語にするのは至難の業だろう。だからall sides, all aroundというのは分かるのだが、この最も大切と思われ対をなしているP.75とP.135の「四方の涯からの風」が英語では別のもののように訳されているところがどうも気になった点だ。当然、パルバース氏がそこに気がつかないはずはないだろうが、何故、訳し分けたのか。
それは多分、訳者の文の解釈なのだろうと思う。文学作品では、産業翻訳以上に訳者の原作に対する解釈による違いが大きいのだろうと感じる。

ゆうけいさんが指摘されている「帯」の件については、また次回にしよう。


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2 コメント

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TBありがとうございました (ゆうけい)
2006-02-20 13:18:39
takiさん、こん**は。新ブログ開始おめでとうございます。NIfty同士でTBがうまくいかないのはスパムTB対策後からずっとなのでフィルタリングが厳しいのかなと思っている程度でした。それにもましてこの頃のTBのマナーが私たちが始めた頃と大分変わってきてるようなので、いい加減見切りをつけるか、という思いもあります。



とりあえず御挨拶まで、桜ーシリーズはまたゆっくりと読ませていただきます。
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お越しいただきありがとうございます (taki)
2006-02-20 23:11:35
ゆうけいさん、お越しいただきありがとうございます。

TBにも文化圏があるとか、知らない間に世は変わっていくのですね。私はリンクフリー(あまり使いたくない和製英語ですが)派なので、勝手に引用なりしてもらえばよいし、TBもなくてもかまわないと思っています。関心があればコメントして頂けるだろうから、TBは止めようかという気もあります。

Blogは手軽に書けるWebsiteという位置づけで書いていますので、続けていきますけど、将来的には整理してBlogではない一つのサイトにまとめたいと思っています。
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