Nueva York Life -Refuse Passive Interest-

某サイトのブログを使ってたのですが、ある事情で、こちらで再出発させてもらいます。

『Another Year』

2011-02-01 23:14:09 | 映画
もし、イギリス人監督マイク・リーが、『Sex and the City』を作ったとしたら??そんな突拍子もない仮定に、この映画はパーフェクトな回答となりえるだろう。この映画の前では、あのうるさくて汚らしい四人組は思わず、閉口してしまい、人生を考え直すキッカケを与えてくれるかもしれない。実際、これが現実なのだ。正直、マイク・リーのレズリー・マンヴィル演じるキャラクターに注ぐ視線は、キツい。ラスト・カットなんて、マイク・リーが『Sex and the City』によって甘い妄想に浸っている中年独身女性の頭に鉄の塊を落とすようなもの。それくらいの衝撃がある。この映画には、いろんなカップルが登場する。それぞれが巧みに対比するように構成されている。春・夏・秋・冬とそれぞれの季節感を出し、ドラマを紡いでいくのだが、メインに置かれているのがジム・ブロードベントとルース・シーン演じる老夫婦。その名は、“トムとジェリー”。ジェリーの職場友達メアリーを演じるのが、レズリー・マンヴィルなのだが、彼女が、その季節ごとに、このトムとジェリーの自宅を訪れる。そこでの彼女の反応にカメラは注目している。

まずは春。メアリーは中年独身であり、バーなどでも、相手を探しているが、なかなか都合よく見付からない。そのせいなのかタバコもやめられず、一人身を隠すためなのか、意味もないことをベラベラと話し続ける。トムとジェリーも、彼女の情緒不安定な様子を気にかけている。その後、トムとジェリーの息子ジョーに興味をもったり、肥満体の友達ケンに言い寄られたりもする。秋・冬と時間が経つにつれ、彼女の状況はだんだんと、悪くなっていく。
マイク・リーのメアリーのキャラクターの問題点に対し、次から次へと槍玉にあげていく。タバコをやめられない。自分に相応な相手を探そうとせず、高望みばかりしている。生活が自堕落しきっている。更に、度が過ぎるくらいの、わがまま。こういう独身女性に希望を与えたのが、あの悪名高き『Sex and the City』であった。そこに幻想の中にしか存在しない、同世代の男を登場させて、恋愛事情を描く。だが現実は、容姿端麗で、お金もある男は、こういう中年独身女性には手を出すはずがない。なぜなら、足手まといになるだけで、関係に全く利点が見出せないからだ。この映画でマイク・リーが見せる現実の厳しさは、そんな甘い幻想に浸っている女性への、特効薬の意味も持っていると考えられるだろう。

この映画で特筆すべきなのが、レズリー・マンヴィルを捉えるカメラ。ちょっと、引いて見ると、それほど悪くない女性に見える。惨めで可愛そうだから、助けてあげたいという同情も芽生える。でも、アップで彼女を捉えるショットを随所に挟む。そのアップで観る彼女はやはり、皺も多いし、化粧も濃い。だから、興味の対象にするのは難しいところを強調する。後半は、悉く、幸せなカップルと彼女を比較していく。だから、ますます彼女の悲哀を浮き彫りにしていく。次第に、観ている側も、彼女が自らを冷静に見据えて、賢くならないといけないことに気付き始める。ラスト・カットの皮肉めいた残酷なカメラの眼差しが、そのことを如実に物語っている。

これまで、マイク・リーの映画との相性は、全く良くなかった。20代で、彼の映画に共感できてしまうのは、あまり、いい人生を送ってきていないことの裏付けのように思えてしまう。この映画に限っては、かなりの部分で意図するところを理解できたと思う。でも、マイク・リーのキャラクター描写が厳しく、冷徹なものであるのに、キャラクター自身は、純粋で、素直だったりする。他の映画の場合でも、振り返れば、同様なのだ。どんなに語り口がドライであっても、キャラクターの純粋な部分から温かみを感じることができる。全然、派手さはなく、一般的な映画というものに対するイメージから、かけ離れた作品だが、強いメッセージ性と現実的な問題を喚起させてくれる、いい作品だと言えるだろう。


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