いきなりですが皆様、『いきつけのお店』というのはありますか?食べ物屋でも服屋でも何でも良いんですけど。
俺の場合は食べ物屋が多いです。それも安いとこばっかり。貧乏ですからね。でも大阪だと安くてもそこそこ旨い店って結構あるんですよ。で、自然とそういう店に通う回数が増える。
ところがそれが落とし穴で、たまーに調子に乗って友達なんかに
「俺、良い店知ってるよ、飯食いに行こうよ」
なんて言ってしまうと、結構痛い目に遭う。
これはもう、そういう星の下に生まれたとしか言いようがないのだけど、たまたま他人を連れて行って、勝手にホスト気分になってるときに限って、ついさっきまでまるで自分がオーナーであるかのように誇らしげに薦めてた店が、
もう十年に一回クラスの大失敗をしでかしやがるんです。それもかなりの頻度で。
カツカレーのカツが、カレーと同じノリで油ん中で一晩寝かせたのかってくらい真っ黒焦げだったり、ラーメンのチャーシューが普段の半分くらいの大きさだったり・・・。
ものっすごい申し訳ない気持ちになります。俺、なーんにも悪くないんですけどね。
で、店を出た後必ず
「あれー、こんなはずじゃないねんけどなぁ」
なんて言い訳すると、俺の友達はみな大人ですから、いやあ、旨かったよ、店の雰囲気は良いよね、また今度連れてってよ、なんて慰めてくれる。ほんとに哀しい。
そういう店にはもう二度と行きません。八つ当たりですけどね。俺に恥かかせやがってぇ、などと暗い部屋の片隅で涙目で呟くのです。
話は変わって、俺が短大生の頃。
俺が通っていたキャンパス(厳密には違うんだけど、書くと長くなるので省略)へ駅から歩いて通う道の途中に、どーにも気になる店があった。その名も、
『ビートルズ喫茶・○○』(○○にはメンバーの名が入るのだ)
気にならないわけがない。ビートルズ喫茶である。今こそそうでもないが、当時洋楽一直線だった俺である。当然、その看板を見つけたその日のうちに店の前までは行ってみた(入るのはちょっとだけ怖かったので)
それは一見山小屋風、七十年代とかにあった(らしい)狭い階段を降りた地下一階とかにあったような小汚いロック喫茶の類とは違うようで、まあド田舎にはこれくらいの方が合っているのかな、と言う程度。少なくとも看板ほどには浮いてない印象だった。でまあ、通学するたびに気になっていたのだけど、ある日ついに意を決して入ってみた。
店内には木製のテーブルと椅子が二、三セット。カウンターの奥に洋酒のビンが一杯並べてあったので、夜はバーに変身するのかもしれない。ずんぐりむっくり、という表現がぴったりな店主、そしてBGMは当然と言うかビートルズ。
出来る限り平静を装って奥のテーブルに座り、メニューをゆっくり手に取る。
当然と言うか、大した料理は無い。コーラと、昼飯代わりのトーストを注文する。
三分ほどして注文の品が出てくる。当たり前のコーラとトースト。いや違う、氷とレモンだけが入ったグラスに、自販機で買える缶コーラが丸々一本出てきて、正直ちょっとだけ面食らった。
でもね、考えたらこれ、お得なんだよね。普通喫茶店で出てくるコーラって缶一本分にも満たない量で、しかもあんなもん店のさじ加減でどれだけ薄めてあるのかわかったもんじゃない。ある意味潔い態度と言えなくも無い。まあ、いざ目の前にコーラの缶置かれて三百円とか取られると、脳内でリアルな計算なんかしちゃって哀しくなるけど、それは俺の貧乏性が悪いって事で。
結構粘ったんじゃないかなあ。何だかんだで三十分くらい、一人でビートルズ聴きながらぼーっとしてたと思う。ビートルズに決して詳しいわけじゃないんだけど、知らない曲でも全然苦にならず、愉しい時間を過ごした。
で、それから少し経って友達(そいつは普段別のキャンパスに通っているのだ)と二人で同じ道を歩いていたとき、当然、件の『ビートルズ喫茶○○』の前を通った。教えたがりの俺は、当然、この店面白いよ、って言ってやろうとした。
その時、最初に書いた過去の嫌な経験が頭をよぎらなかったわけじゃないけど、でもね、
こういう店って、食い物の味を云々するところでもないじゃないですか。
料理は俺も知っての通り、大したもんじゃない。あのコーラの出し方からして、そっちはもうは開き直ってる風ですらある。ここはあくまで雰囲気を、ビートルズを愉しむ店なのだ。
だから俺は友達に
「食いもんは知れてるよ。それは期待しないでね」
と告げて、店に向かった。友達は俺よりロックに詳しく、当然ビートルズも大好き。二人で大好物のビートルズを思う存分愉しもうじゃない。密かにワクワクして店のドアを開けた。
『わかりはじめたまーいれぼりゅーしょーん・・・』
渡辺美里だ。
ビートルズ喫茶に渡辺美里が流れてる。なんでだ。
店主、ドアの音に気付いて、カウンターの椅子から慌てて奥に駆け込み、それからものの十秒ほどで
『抱きしめたい』が流れ出した。
それから、俺とそいつはテーブルについて、よっぽど慌てたのだろう、微妙に呼吸が荒くなってる店主にコーラを頼み、缶コーラを飲み干して十分ほどで店を出た。その十分間、俺の脳内にはビートルズではなく、
「恥かかせやがって、恥かかせやがって・・・」
この言葉がエンドレスで流れていた。店を出た後、友達が、
「良い雰囲気の店やったな、また来ような」
と優しく言ってくれた。そのすぐ後、
「・・・ちょーっと、びっくりしたけどな」
そう言って、耐え切れなくなって大爆笑しやがった。
その後、俺は『ビートルズ喫茶○○』には一度も行っていない。
PS.久々の更新です。愉しみにして下さった皆様(って自分で書くと照れるな・・・)大変お待たせいたしまして申し訳ありません。
申し訳ないついでに、本ブログ『たべにのいたずら書き』はあと二回の更新を持ちまして終了いたします。何で二回かって言うと、書きたい事が一応その程度はあるから、なんですけど。最後はご挨拶だけになっちゃうかもだから、実質後一回か。
何かこれ以上書くと今回で最後のお別れみたいな文章になっちゃうのでやめときます。というか、最近忙しくて、その後二回もいつになるかって感じなんですけど、どうか気長に待ってやって下さいませ。では。