活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

不足■HAYABUSA、いのちの物語(その15)

2011-06-16 01:35:49 | 宇宙の海

HAYABUSA、いのちの物語
開催日時:2011年5月5日(木) 14時~ 約1時間半
会場:すばるホール 2階ホール
主催:財団法人 富田林市文化振興事業団
協賛:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
講演者:上坂浩光氏(HAYABUSA BACK TO THE EARTH監督)

※ 重ねがさねとなりますが…。
  本レポートはブログ主の記憶とメモを主とし、そこにこれまでに
  収集した情報とブログ主の解釈等を加味して記載しています。
  そこに書かれてある内容に事実と相違等ある場合、その文責は
  一意にブログ主にあります。
  

■転

これまで、監督の講演会を構成する四つの章のうち、

起:HBTTEの制作に至るまでの経緯
承:製作開始から、完成  〃

をトレースしてきた。

残すところは、転、ならびに結の章である。

これらの章で。
監督から、どのような話が紡ぎだされたのか。
これから、順を追って追いかけていきたいと思う。

さて。
ここからは、いよいよ。
監督とHBTTEを取り巻く物語が、更におおきなダイナミズムの
うねりの中に取り込まれていったのかについて講演は言及していく。

いや。
この表現は正しくあるまい。

正確を期すれば。
監督とHBTTEが投じた波紋がどのようなうねりを起していくか
について語られていく、という表現となろう。

それが、この「転」の章である。


■不足

時は移って。
2010年6月。

上坂監督は、オーストラリアの大地へ立っていた。

はやぶさの地球帰還を、文字通りその眼で見届けるために。

そう。
はやぶさは。
これまで、監督の中では。
自らが生み出した映像として、存在していた。

むろん、リアルに本体が宇宙を飛翔していることは当然認知している。
にも関わらず、作品制作に携わってからこれまでの間。
まるで、モニターの向こうに彼が存在があるかのようにまで感じていた
はやぶさ。

その、はやぶさの実体にとうとう邂逅できるのである。
しかも、出会った瞬間が永遠の別れという劇的なシチュエーションで。


当初、上坂監督もオーストラリアに行く目途は立っていなかったようで
ある。
今回の講演でもお話ししていただいたのであるが、JAXAに対して
何とか同行させてもらえないか?という打診もしてみたものの、敢え無く
リジェクトされてしまったとのことであった。

そのJAXAの判断には、二つの事由があったと思われる。

その一つが、JAXAの資金余力の問題である。

本来であれば。
JAXAは正式に上坂監督に映像記録を依頼して、はやぶさの帰還を記録
してもらうというという判断もあったはずである。

もちろん。
映像記録班も編成され、現地に派遣されていたことは事実である。
#飯山総合プロデューサーも、その長年の流星観測の実績等を買われ、
 その一員として現地入りしていた。
 詳しくは、こちらにて。

ただ、それらはあくまで記録用とカプセルトレース用の映像撮影が
主目的である。
当然撮影される映像は、はやぶさのリエントリ・シーンのみとなる。
今後のJAXAの広報を考えた時に。

はやぶさ帰還を迎える各チームを、そのチームの結成から丹念に追う
ドキュメンタリー映像があってもよかった。

捜索チームの結成式。
日本での無線を使用した探索訓練の日々。
ビーコン検知訓練の様子。

現地への出立式。

ウーメラへの陸路の旅路。
現地での基地の展開。

当日の情景。

そして…はやぶさの帰還。
それを迎える人々の、様々な表情など。

こうしたドキュメンタリーを制作したいと考えたメンバーも、はやぶさ
大型映像制作委員会に携わったJAXA職員、特に広報関係部署の方には
必ずや存在したと思う。
そして、その際には。
当然、HBTTEを監督した上坂監督に、その撮影を依頼したかったと
思うのだ。

にも関わらず。
それは、実現しなかった。

だからといって。
JAXAが、決して広報の必要性を軽んじていたとは思っていない。

一時は、もっとうまいやり方もあるだろうにという思いに駆られたことも
あったが
、はやぶさ飛翔中の段階から「祈り」の制作やはやぶさ大型映像
制作委員会へ参画していたこと等を考えれば、JAXAのやり方が必要十分
とまでは思わないけれど、その限られた人・モノ・金の中で十分広報活動に
取り組んでいたと思っている。

それでも。
このはやぶさの帰還をとらまえて、ドキュメンタリー製作といった形で広報に
費用を割く余裕は、JAXAには無かったのである。

何せ。
7年間宇宙を彷徨い、極端な温度差、放射線その他の過酷な環境にあった
はやぶさの機体である。

更には、リエントリ・カプセル射出に関する機構は。
その間、一度も火を入れることもなく眠り続けていたのである。

射出機構の火薬は果たして正常に機能するのか?
その際に、きちんと想定軌道にカプセルを乗せられるのか?

そして。
大気圏に突入後は。
カプセルの耐熱性能は、劣化せずにきちんと機能してくれるのか?
#あのイトカワへの不時着の際に、カプセルに傷が付いていないという
 保障はどこにもないのである。
 スペースシャトルのコロンビア号 STS-107の事故が耐熱保護パネルの
 損傷に起因していることを思えば、この危惧は杞憂では無いと言えないか。
 シャトルの場合にはこの事故を踏まえて、以降のフライトではISSから
 耐熱パネルの損傷有無の目視確認(ランデブー・ピッチ・マニューバ)が
 義務づけられたが、はやぶさの場合はもちろんそうした確認など望むべく
 もないのである。

また。
長年放置されたビーコンのバッテリーは、きちんと定格容量を保持できて
いるのか?
電源が確保されたとしても、ハードウェアは正常に作動するのか?

等々。

心配を列記すれば、枚挙に暇がない状況にあってJAXAに出来ることは
何があるのか?

それは、何が何でも地上に辿り着いたカプセル回収に全力を傾注すること。

そのために、割ける人員と費用を総投入して、目視観測班、無線観測班、
その他様々な布陣を引いて到着を待ち構えたのである。

誰もが、カプセルが着地してから僅か1時間後にはその所在が確認できる
などとは思えなかった中にあって。

JAXAはビーコンを発出できず、その軌跡も追えなかった場合も想定し、
人海戦術でウーメラ砂漠を隈なく目視捜索する案まで準備していた。

そうした状況下。
JAXAの予算は、カプセル回収に自ずから集中して投下された。

その結果。
ドキュメンタリー撮影の目的に対して、人材も費用も投入できなかった
JAXAを責めることは、あまりにも酷というものだろう。

(この稿、続く)



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