活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

挑戦■HAYABUSA、いのちの物語(その6)

2011-06-01 18:07:44 | 宇宙の海

HAYABUSA、いのちの物語
開催日時:2011年5月5日(木) 14時~ 約1時間半
会場:すばるホール 2階ホール
主催:財団法人 富田林市文化振興事業団
協賛:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
講演者:上坂浩光氏(HAYABUSA BACK TO THE EARTH監督)


■承前

HBTTEのDVD特典にあったメイキング映像でも、監督が
言及されていたが。
CGムービーであるHBTTEの作品制作は、主に以下のプロセス
で進められていった。


1)イメージボード(コンセプトアート)の作成
  →監督の抱く作品観を具現化し、周囲へ共有

2)絵コンテの制作
  →映画の、言わば設計図の作成

3)アニマティクス(詳細なレンダリング前の、低クオリティの
  CGを実際と同一の尺で作成し、作品の全体像を確認して
  いくこと)の制作
  →完成品のプロトタイプの製作

4)4KレベルCGの製作に向けたレンダリング
  →完成した部分から、アニマティクス映像と差し替え

5)レコーディング
  →音楽、ナレーションを映像に重ねていく。
   いわゆるアフレコ。
   それっぽく言うとMA(マルチオーディオ)。
  
6)完成!公開へ。


実際には。
監督の星居ブログでも語られていたように、上記は必ずしも
シーケンシャルとは限らず、特に完成間際では4)と5)は
かなり入り乱れて進行していたようではあったが。


ともあれ。
この一連の製作過程のうち、今回の講演の中で語られた各プレゼン
テーションに使用されたものが、どのプロセスのものだったのか。

恐らくは以下のような突合ではなかったかと思われる。

(凡例  ○:講演で触れられたもの  
     ●:監督の星居ブログで語られたもの)


 ○7月2日のプレゼン:1)のイメージボードを上映
  →上坂監督が、正式に本作品を監督として担当することが決定

 ○8月2、6日のデモ:1)の全編版。
  →作品のストーリーや演出についてのスポンサー承認

 ●9月29日のDPWS※:ごく一部の試作的な4)
  →番組制作発表を受けての、初めての一般デモ

  ※DPWS ディジタルプラネタリウムワークショップ。
        年1回開催されている、文字通りプラネタリウム
        映像の方向性を探るためのワークショップ。
        2008年は、東京の科学技術館で開催された。

 ○11月16日の科学技術館での試写会:3)のほぼ完成版
  (監督曰く、最終ストレート直前の進捗のもの)
  →JAXAをはじめとした関係者への試写

 ○3月の一連の試写会:7)
  →大阪、東京双方での、関係者及び一般公募による試写会。
   ちなみに、29日の大阪市立科学館での一般向け試写会には、
   幸運にもブログ主も当選し、参加することが出来た。




■挑戦

2008年8月2日。
大阪市立科学館での、科学館幹部を前にしたストーリーボードの通し
プレゼン。

いや。
科学館幹部という表現は、正確ではあるまい。
なぜならは。
飯山総合プロデューサーの存在が大きいため、つい大阪市立科学館が
本作品のメインスポンサーと思いがちであるが、実際にはHBTTEは
四社による製作委員会方式を採用しているため、このプレゼンにも
恐らくは四社それぞれから責任者が参加していたと思われるためである。

ちなみに、その四社とは。

財団法人大阪科学振興協会
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
有限会社LiVE
株式会社リブラ

である。

財団法人大阪科学振興協会とは、大阪市立科学館の運営管理を行っている
大阪市の外郭団体である。
大阪市立科学館の運営については、大阪市からの業者指定を受ける形を
取ってはいるが、組織住所も大阪市立科学館と同一であり、理事に科学館
館長も在籍していることから、事実上大阪市立科学館は同協会にほぼ内包
されたような形と言ってもよいであろう。

従って、以降の標記は大阪市立科学館に統一して表現するものとする。

JAXAは、先の「祈り」の製作を見ても分かるとおり、映像を通じての
啓発活動にも力を入れていることは間違いない。

ただ。
それだけであれば、全国各地の科学館の作品制作の動きがある中で、この
作品の企画にタイムリーにJAXAがコミットした理由にはならない。

想像だが、大阪市立科学館側からは科学館がJAXAの探査機をモチーフ
とした作品を製作する際には是非出資をという働きかけも、長期に渡って
あったのだろう。

そうでなければ、2008年5月の「はやぶさ」大型映像製作委員会設立に
タイムリーに参画することは不可能であろうから。

※ ちなみに。
  「はやぶさ」大型映像製作委員会については、参加団体こそ判明して
  いるものの、知れ以外の詳細が殆ど不明である。
  そんな中で設立を2008年5月と推定したのは、リブラ社のHPに
  5月に同委員会に参画という記載があったためである
 

こうした営みは、組織的な要素も多分にふくんでいるものの。
飯山総合プロデューサーの、長年に渡る折衝の成果ではないかとも思って
いる。

となれば。
先に紹介した、2008年3月のリブラ社の田部氏を介した飯山氏と
監督との出会いを経たこの作品の製作は。

正に、そうしたコンテンツ製作に向けての資金面での手当やJAXAの
協力、更には40分以上もの長尺で4Kフルドーム映像の製作が出来る
ようになったハード・ソフト両面でのCG技術の進歩、更には同じ意識を
持った人々の運命の撚りあわせという、天地人の三式が揃った結果で
あったと言えるだろう。

そして、勿論。
それを成したのは、運命などという言葉で語られるものではなく。
実現しようとする人の思惟故であることは論を待たない…。



閑話休題。
話を、2008年8月のプレゼンに戻そう。

ここでの承認を経て、初めて監督の意図する作品の制作へと本格的に
踏み出すことができる。

逆に、あまりダメ出しが続けば、せっかく手中に収めた今回の契約も
破棄されることになるやもしれない。

何せ。
この物語は、ドキュメンタリーではないのである。
描かれている内容に何の嘘も誤魔化しもないが。
実際に起きたことをきちんと網羅し、解説しているといった従来の
科学啓蒙映画の枠からは、十分過ぎるほどに逸脱している。

そこにあるものは。
あくまではやぶさのみを見据え、その旅路を追体験していく映像。
そして。
その旅路から、全ての人が、宇宙とその中にある生命という存在を
感じて欲しいという監督の思い。

それが。
大阪市立科学館が自ら出資し、上映する作品として本当に相応しい
と判断してもらえるのか?

監督の中で。
そうした自信と不安がブレンドされた状態で、プレゼンは開始された
のではと思っている。


画面には。
前述のシノプシスのとおり。
はやぶさのみを画面に登場させていく形で、監督の手によるイメージ
ボード画像が映し出されていく。

アニマティクス映像では監督ご自身がナレーションを吹き込んで
おられたが、この時点ではおそらくまだ画像のみのプレゼンである。

音楽も、HBTTEのサントラはまだ当然完成していないために、
あり合わせのものを使用してあてている。

ナレーションについても、この時点では入っていない。

ひょっとしたら。
創成期のテレビのように、リアルタイムで監督が語りを入れられて
いたのかもしれないが。


まだ、CG化もされていない、監督手描きの。
だがそれ故に、「祈り」の映像コンテンツ作成爾来、監督の胸中に
あった「自分であれば、どのように作品全体を創り込んでいくか」
という思いがダイレクトに反映されたイラスト。

そして、そこに込められた「いのちの物語」というコンセプト。

そこには。
あくまでコンテンツ制作として参画した「祈り」において、監督が
実感した(させられた)パート担当としての扱いの悔しさを見返す
ための思いもまた、込められていたのではないか…。


が。
その映像を観終わった後の幹部層の反響は、真っ二つに分かれてし
まった。


いや。

どちらかといえば。

科学技術啓蒙映画の伝統を汲んで、淡々と思い入れを排除したいわば
ドキュメンタリーチックな映像としてほしい。

そうした声の方が、多かったのである。


6月のプレゼンにおいて、コンセプトとしての「いのちの物語」には
共感した幹部達も、実際に自分達の判断で製作費を用立てて、そうした
作品を制作するという行為に、どうしても及び腰になってしまった
のかもしれない。

大阪市立科学館は、言うまでもなく公共の施設である。
そこでの予算の用途については、運営管理を行なっている財団法人大阪
科学振興協会の承認も得なければならなかったのかもしれない。

振興協会の役員は、関西電力の顧問や大阪市役所の副市長、大阪大学
名誉教授といった如何にも固そうな面々で構成
されている。

そのお歴々に、果たしてこのコンテンツが受け入れられるのか?
従来路線を踏襲した作品であれば、例え興業が失敗に終わったとしても、
特に叱責は問われないかもしれない。

そこを敢えて。
一歩も二歩も踏み出した作品の製作に乗り出そうというのである。

更には。
大阪市立科学館として、オリジナルの全天周コンテンツの製作はこれが
初めての試みなのである。

しかも、予算も潤沢に有るわけではない。
HBTTE製作費用を計上したと思われる2008年度(平成20年度)の
オムニマックス上映事業費は50,544千円


その翌年の同事業費が41,682 千円なのである。

ものすごく単純に考えれば、HBTTEの製作委員会に科学館が出資した
金額は差し引きの9百万円程度となってしまう。


されど。
それだけの費用を投じて、初めてオリジナル作品を製作する事業に出資
しようとしていることを。

そして、更には。
そこに従来のテイストとは全く異なる作品を制作しようとしていることを。

両者を思うとき。
その実現性を鑑みれば、自ずから腰が引けてくることもまた、容易に
想像できるではないか。


真相は、もちろん当事者の胸の中にしかないが。

そうした様々な躊躇やためらいが。
8月2日のプレゼンの段階では、製作委員会として着手判断が出ない
事態を招いたのではと思われる。

ただ、無論。
このままでは、この作品が宙に浮いてしまう。

宇宙を舞台にした作品だけに宙に浮いて当然、などと言っている
場合ではないのである。




捲土重来を期して臨んだ、8月6日の再プレゼン。

そこに監督が用意していったものは。
ある、隠し玉であった。


(この稿、続く)


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有限会社ライブ

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