大相撲

大相撲についての想い

都知事ありがとう

2007-01-13 20:38:28 | Weblog
大鵬は、ずっと若干年上の柏戸の後塵を拝して、柏戸を目標に稽古を重ねていった。

大鵬は自分が天才と呼ばれることについていつも反発し、柏戸こそが天才だと言っていた。なぜなら、裕福な農家の生まれでハングリー精神があるわけでもなく、稽古もあまりしないのにあれだけ強いのだからと。このコメントはは優勝回数で柏戸を凌駕するようになってからも同じであった。(同じ理由で、大鵬は巨人大鵬卵焼きという言葉は好きでないらしい。巨人みたいにスター選手を集めてきたチームと、稽古の積み重ねで這い上がってきた自分とは全く違うということだ。しかし、常々思うが「卵焼き」って明らかに巨人大鵬とレベル感が違うのだが...)

大鵬と柏戸はライバルであったが、決していがみ合っていた訳ではない。

六連覇を果たした大鵬、数場所の休場を経て病み上がりの柏戸と千秋楽で全勝対決となった。このとき、大鵬には気の緩みがあったらしい。勝てるだろうと。

しかし、あっさり柏戸が寄り切った。大鵬の立合いは甘く、腰高で攻めも雑だったと本人も後になって認めている。

大鵬は悔しさもあったけれど、柏戸が再起の全勝優勝をしたことが自分のことのように嬉しく、「おめでとう」と声をかけたいくらいだったという(勿論負けた横綱が大っぴらにそういう発言はできなかっただろう)。柏戸はこのあと支度部屋で号泣し、こぶしで涙をぬぐっていたのをタオルにかえて暫くは顔を覆っていたままだという。

それもそうだろう。なにしろ大関時代の優勝から十六場所も遠ざかり、しかみ病み上がりで横綱になってからの初の優勝だったのだから。パーティでも泣き続けだったという。

ここまでで大変いい話なのだが、この数日後、芥川賞をとったこともあり、弟が有名な俳優で、自身は政治活動を後にすることになる某小説家が、スポーツ新聞上でこの千秋楽全勝対決を「八百長だ、いい加減にしろ」と決めつけこきおろしたとのこと。「あれが国技か。尊い国家をあんな八百長ショーの後に歌わないでくれ」と。

大鵬自身はビデオで自分の相撲を見て、確かに自分のおごりの相撲はそう誤解されても仕方ないなとは感じた。すぐ双葉山(当時の理事長)が大鵬を呼んだが大鵬は「絶対に八百長はやっていない」と。双葉山「そうか。それなら協会が黙っていて協会が黙認したととられるわけにはいかない」。協会の名誉を傷つけ、力士の誇りを踏みにじるものだとして双葉山は激しい怒りを見せてこの作家とスポーツ紙を告訴した。

大鵬は自分のおごりは認めても、記事を呼んだときは「冗談じゃない」と叫んだ。その背景には色んな思いや自分の土俵ポリシーが理解されなかった怒りがあっただろう。

柏戸も当然怒った。自分が闘病に打ち勝って場所前から一生懸命やってきた成果と、その喜びで流した嬉し涙を汚されたことになるのだから。

最終的にはこの作家は自分の非を認め、協会に詫びることとなった。しかし、驚異なのはこの作家は本場所の相撲はこのときまで一度もみたことがないくらいの相撲リテラシーだったということ。それがマスメディアを使って勢いで書いてしまうのだから恐ろしい。

このあと、一段落してから、たまたまある車に大鵬と柏戸が同乗することになったという。このとき大鵬は一言柏戸に「いろいろつらかったろうね」と言ったという。怪我を克服して優勝したことの偉大さと、それなのに八百長といわれた憤りは俺は分かっているぞ、という思いがこの一言で伝わったのだろう。

柏戸が言ったのは一言だけ。「うん」と。そしてそのあとこの車の中でボロボロ泣いたそうだ。大鵬はこれで柏戸のことを素直でいい人だな、と親しみを感じ、このときまで当たり障りのない会話しかしなかったこの二人は、このあとは一緒によく呑みにいくようになったという。

以上は大鵬さんの「私の履歴書」に書いてあった内容である。大鵬さんは言う。どんな社会でもよきライバルがいないと何をやるにしてもだめだ。そしてこのライバルが将来必ずよき友になる。競争して人は良くなる。つらい思いをして勝ち取ったものが本当の感激だということが、本当に強くなったら気持ちがみんな分かる。そして良き友になる。それが誇りにもなる。

角界に並び立つ両横綱が、お互いをライバルとして切磋琢磨して、大相撲界を引っ張る。そしてその両横綱はそれぞれ稽古や怪我の厳しさを他のどの力士よりも大きく乗り越えてきただけに互いを尊重しあい、そして土俵を離れれば良き友にすらなる。こんな素晴らしい状態を演出してくれたのも、ある意味、ポピュリストで強権主義的な某小説家がこの世に存在していたからだ。

この話の中にはいろいろな相撲道的な志が背景にあると思う。大鵬さんは勿論だし、努力を重ねた柏戸も。双葉山の行動もそうだと言える。一人の小説家を除いて。



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1 コメント

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Unknown (kimuhaji)
2007-01-13 22:17:12
都知事、やっぱりという感じですね。
私はこの人の笑顔が嫌いです。息子も兄弟も嫌いです。次も三選されそうとのこと。
東京都民はこの人のことを好きな人が多いのでしょうか。
大相撲は東京場所はそうは言っても観客多く盛り上がってるのに。

相撲は国技であり、偉大なる伝統文化であります。
その中を貫き通しているのが相撲道であります。

都知事にはそれに対しての畏敬の念がない。

私はそれに対しては大変憤りを感じるのであります。
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