年も押し迫った12月の日のこと、庭ですれ違いざまに竹子伯母は母を呼びとめた。
「K銀行の通帳、預けるから ここから母の必要経費出してくれる? 前はお金のことはきっちりしてたんだけど、
今はもう どんぶり勘定よ! だからここからビールでもお菓子でも、なんでもユキさんやイチロウちゃんが
ほしかったら 好きに出して使ってくれる? 」
そして、さりげなく続けた。
「おかあちゃんの通帳ね、私の貸金庫にいれてあるのよ。もうだいぶ前のことなんだけどね。
あなたとことけんかしてたから言わなかったんだけど・・このことは梅子も四郎も知って・・・
( えっ‥それってどういうこと?)
まあ、四郎ちゃんは男の子だから そんなこと忘れてるかもしれないけど・・・」
竹子伯母は祖母・松子さんのお世話は子供全員で見る、あなたたち必要ないと言って譲らなかった。
しかし今、松子さんの世話に関する費用は通帳から直接引き出してね、と臆面もなく母に言う。
母:「この家のトラブルは<とる、とらない>といったお金のことから始まりました。
だからあとの二人と話もしないのに お義姉さんの一存でお義母さんの通帳をあずかれません。
それにしてもお義母さんの世話、そんなに大変ですか?
だったら、ほかの二人にも手伝ってもらったらいいじゃないですか。なんで頼まないんですか?
私にはそれが不思議で仕方ない」
伯母:「私がずっと来てもいい。でも 私は今のことだけじゃなくて もっと先のことを考えている。
ずっと世話していて私がぶっ倒れたら困るのはそっちなのよ。イチロウちゃんは 夜、ただ血圧計って、
薬飲ますだけだけど男の人だってもっと世話している人はいる 」
母: 「もっと世話してる人はいるって、じゃあ あとの二人はどうなんですか?
お義母さんの大事な時に二人ともぜんぜん来ないっておかしいじゃないですか。
なにか来られない事情があるんですか。 それとも おねえさんが止めたはるのですか」
「なにも わたし一人でおかあちゃんを取り込もうというんじゃないのよ」
「お義母さんを取り込むって、それ、どういうことですか!?」
“母親の世話は兄弟全部でする。それがきょうだい皆の総意だ。あんたたち必要ない。
いまどき長男って時代錯誤よ” 伯母はそう言ってこの家のトラブルのきっかけを作った。
そして今、松子さんの介護をきっかけに自分のこれまでの言葉を、なかったことにしようとしている。