短歌周遊逍遥(仮題)〔旧「詩客」サイト企画・「日めくり詩歌」〕

3名の歌人が交替で短歌作品を鑑賞します。
今年のご執筆者は奥田亡羊、田中教子、永井祐(五十音順)のお三方です。

2013/1/7 〔永井 祐〕

2013-01-07 00:00:00 | 永井祐
流れ寄る(あくた)の中の渦いくつ右まきひだりまき吾を慰む   土屋文明「川戸雑詠五」『山下水』


あけましておめでとうございます。
今年から「短歌周遊逍遥」の担当になりました永井祐です。
はじめての連載形式の原稿、折々のうた風に1回に1首の全28回、ノー・ギャランティの仕事です。
スマホでトイレなどでも読めるような文章を目指したいと思います。
よろしくお願いします。

さて、今日の一首。
「芥」はごみとかくずとかそういうものです。「流れ寄る」だからおそらく川べりなんかにいて、ごみが流れてたり、はじっこに集まったりしてる。そんな川にいくつか渦ができている。「渦いくつ」というのは、別にいくつ?と考えているわけでもなくて、「いくつか」ぐらいの意味でいいでしょう。そして、出た!次の句!「右まきひだりまき」ここで頭をがくんがくん上下左右に振りましょう。ここでやられないと、この歌は面白くもなんともありません。サイケなフレーズなのです。

もちろん渦の巻き方のことです。川の中の複数の渦が右に巻いてたり左に巻いてたりしている。それを見ている人もぐらんぐらんになっている。それが証拠にここで字余りしています。「右まきひだりまき」は9音、2音はとても大きな余りです。それくらいグラっと来ている。「ひだり」が何故かひらがなになっているのもそのためでしょう。

そしてふと気付くと心が安まっていた。それが最後の「吾を慰む」です。人をすっきりさせてくれるのは言葉による文脈操作ではない、体験だ。そんな教訓をここから読み取ってもいいでしょう。

それでなぜこの男は当たり前のようにはじめから凹んでいたのかというと、この歌のできたのが終戦から半年も経たない昭和21年の新春だったという事実と、無関係ではないでしょう。



執筆者略歴
永井祐(ながいゆう)
1981年生まれ。
2012年第一歌集『日本の中でたのしく暮らす』刊行。


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