不眠症の眠れない夜

トラブル解決便利屋商売のオレ。時に説教臭いのが難点(フィクションです)。別途、遺物全文をブックマークに整理中。

鼠の目#294(ほぼ全文はブックマークで)

2008年03月31日 | 説教便利屋稼業
鼠の目・これまでの梗概



あれでよかったのかしら、と篤子は義母・良子に問うた。

「いいわよ、あれで。それより警察が監視しているみたいね。いずれ事情聴取もあるはずだわ。波動の文龍名さんに連絡をいれておいた方がいいわね」

「真理子のいるところはどうしましょう」

「そうねぇ…。下手に動いてしまうのもどうかと思うし…。真理子が懸命な判断をしてくれるはずだけど、とにかく連絡だけはいれておいてちょうだい」

篤子は頷くと、携帯電話を取り出した。





長田の掌を粉砕したケンスケは、駅前のコーヒーショップにいた。

メンソール煙草を吸い込みながら、モヤモヤしたひっかかりをまさぐっていた。

長田の印象に、なにかひっかかる。

このモヤモヤした部分がハッキリすれば、ジグソーパズルがピタリと完成しそうな気がしてならない。

しかし、それが鮮明なイメージとしてつかめない。

ケンスケはもどかしさに煙を吐き続けた。

短くなった煙草を灰皿にこすりつけると、ケンスケは立ち上がった。

いずれわかるだろう、焦っても仕方がない。

とりあえず事務所へ行こう。

そして和田さんに教えてやろう。

やっぱり手を下したのは長田だ、と。

ただし背後で不気味ななにかが蠢いている、と。



鼠の目#293(ほぼ全文はブックマークで)

2008年03月30日 | 説教便利屋稼業
鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田さん=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。こすからい古参下士官



ローカル線の向かい合わせ座席を独りで占領し、長田はブツブツと独り言を呟いていた。

ゴミタメのような匂いと、むさくるしい風体、さらに右掌に巻かれた汚い包帯に、他の乗客はかかわりを恐れて近づこうとしなかった。

クソどもが、誰に向かってモノをいってんだ、オレは川崎真理子という神に仕える神人だぞ、テメェら神罰を下してやる、ズタズタに、徹底して無慈悲にやってやる、来い、川崎真理子の鎮座するあの森へ来い、不逞な連中はオレが始末してやる…。

もし誰かが近づいて長田の独り言をきけば、こういうことを耳にしていただろう。

オレにとって川崎真理子は神だ。

さらに真理子はオレの女だ。

オレの腹の上で泳ぎ、熱いほとばしりを真理子は受け止めた。

真理子を助けるためには、なんでもやる。

惚れた弱み、だな。

真理子から和田洋子と宮崎一平の始末を頼まれたときには、ちょっとビックリしたがな。

なんのために、なんて聞かねぇよ。

神であり、情婦である女がいうんだ、四の五のいわずにオレはやる。

ガキの頃から、手をあげるのは得意なんだ。

いつも殴り勝ちだったからな。

ガチャガチャいうやつは腕力で黙らせる、これが一番手っ取り早いんだ。

真理子はしばらく留まれ、まだ来てはいけない、といってたけど、なに、構うもんか、着いたら早速、きついセックスをしよう。

ヒィヒィ喜ばせてやるぜ。

しかし、ケンスケといい、鼠のジジイといい、どいつもこいつも、今度会ったらタダじゃおかねぇ、ボコボコにしてやる。

特に、ケンスケだ。ヤツは赦さねぇ。

一寸刻みでズタズタにしてやる…。

独り言のあと、長田は考えごとを始めた。

ただし「考える」ことに不慣れな長田の脳細胞は、プスプスと過熱しはじめてはいたが。

左手に握った焼酎をグイッと飲み干すと、長田はいつのまにか寝入ってしまった。



鼠の目#292(ほぼ全文はブックマークで)

2008年03月28日 | 説教便利屋稼業
鼠の目・これまでの梗概



オレはさりげなく肩を竦めると、ブラブラと地下鉄駅の方向に歩き出した。

歩き出して間もなく、公園の脇でオレの携帯電話が鳴り出した。

局番から判断すると、多分、山下刑事のところの局線番号だろう。

受話スイッチを入れ、オレは公園のベンチに腰を下ろした。

鼠か、と不機嫌そうな声が聞こえた。

「これは、山下刑事」

オレはハイライトを引き抜き、火をつけた。

深々と吸い込むとイガラっぽい刺激煙が心地よかった。

「オレはガチャガチャといわん。川崎の家での話が終わったら、オレのところに寄れ」

「ほう、なんのために」

「いいか、ネズミ。オマエと言葉遊びをするほど、オレはヒマじゃないんだ。それくらいの察しはついているだろうが。手間をとらせるな」

「わかった。小一時間ほどまっていただきたい」

了解した、という言葉とともに、ブツンと切れた。

相変わらず、単刀直入かつ不機嫌な刑事だ。

もう一本、ハイライトの紫煙を愉しんで、オレは地下鉄駅に向かった。

地下鉄でノソノソ行っても、小一時間で山下の署に着ける。

その間に、これまでのイキサツをどう説明するか、考えないといけない。

なにか判ったら、必ずオレに話せ、ときつく山下刑事にいわれてもいたしな…。

ヤレヤレ、やはり山下刑事にはかなわねぇ。

いや、早くも川崎家の監視に入った日本警察の優秀ぶりに脱帽、というところか。

とつおいつ考えていると、ダウンタウン方向への地下鉄が入線してきた。



鼠の目#291(ほぼ全文はブックマークで)

2008年03月28日 | 説教便利屋稼業
鼠の目・これまでの梗概

<主な登場人物>

オレ=初老のフリーランス便利屋、通称、鼠。説教多し
オカマのマリー=オカマバーの女将、陸上自衛隊OB
ケンスケ=オレの助っ人、仏外人部隊脱走兵
山下=定年前の所轄の刑事
和田さん=事務所の雑用を請け負ってくれている素敵な女性
和田洋子=和田さんの一人娘
川崎真知子=オレの依頼人。川崎徳一の孫
川崎真理子=真知子の妹
徳永高男=波動研究会の会長、川崎徳一の嫡外子
文龍名=カルト教団・統合真理教会のボス、波動の最高幹部も兼ねる
後藤=徳永の部下、事務方、対外折衝部門の長
宮崎一平=和田洋子のサークル仲間。波動研究会の末端メンバー
長田=波動のメンバー、徳永の非公然活動を担う
滝川順平=靴屋の隠居、川崎徳一の戦友
川崎徳一=本名・李光徳、川崎姉妹の祖父
川崎良子=川崎徳一の夫人。川崎聖一の母。古朝鮮の祭祀一族の末裔
川崎聖一=川崎徳一の息子であり、川崎姉妹の父。徳一の死後、失踪
川崎篤子=川崎聖一の妻。川崎姉妹の母。廃宮家の末裔
上島上等兵=滝川、川崎の終戦時の上官。こすからい古参下士官



オレは一揖したあと、それでは、と立ち上がった。

オレをこの部屋に案内した化粧っ気のない中年の女に見送られて、玄関をでた。

出るとすぐに、悪意のあるかのような勢いで、ピシリッと通用門が閉められた。

オマエのような下司が来るところではない、と意思表示をしているようだった。

ん?

オレのアラートが鳴り始めた。

玄関の前の道路には、漠とした緊張感が漂っていた。

ざっと周りを見渡して、オレは即座に理解した。

ここは警察の監視下にある。

前方と後方にさりげなく駐車している車から、いくつかの目が光っている。

素人ではなにも感じないだろうが、少なくともオレはプロだ。

鼻の利かないプロはプロとは呼べんな。

しかし、さすがに山下刑事だ。

ここに辿り着く時間の素早さといったら、どうだ。

刑事にもプロとアマチュアがある、という見本だぜ、こりゃあな。

オレの姿を視認した以上、早速、山下刑事からお叱りの電話が入るだろう。



鼠の目#290(ほぼ全文はブックマークで)

2008年03月27日 | 説教便利屋稼業
鼠の目・これまでの梗概



「あー、簡単にいえば修行、そういう理解でいいだろうか」

「そうですわね」

「たとえば伊勢神宮の斎官が皇女であるといったことだろうか」

「ますます正鵠を得ていると思いますわ」

「わたしはそこへ行ってみようと思っている」

「あなたが、ですか?」

「そう」

「なぜですの?」

「依頼は川崎真理子を奪還することだった。それができていない。波動に出奔したことが彼女自身の意志であるなら、そのことを依頼主である川崎真知子に自分の口で伝えて欲しいからだ。それができなければ、調査費のただどりだ。わたしはそういうことはできない」

「よろしいじゃありません、そのくらい。真知子も織り込み済みじゃないのかしら」

皮肉な口調で良子がいった。

初めて会った時の印象と随分ちがった安っぽい表情が垣間見えた。

「いや、それはできない」

「随分と律儀でいらっしゃるのね」

「フリーランスは愚直なまでに律儀でなくちゃ務まらない」

「そう。お止めはしませんわ」

「なにしろ若者二人の死体が転がったのだ。納得できるまで嗅ぎまわってみるつもりだ」

「お役にたてましたかしら」

「ずいぶん。ただいずれ警察は来る。老婆心ながら、小細工は弄しないほうがいい。担当の山下という刑事は、極めて優秀だ」

「お心遣いに感謝しますわ」