くまだから人外日記

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(新規オリジナル続編)【偽書】聖なる夜空に幻の星は降るらん 8

2014-11-17 11:12:19 | 【偽書】シリーズ
「なら美談なんスけどね、何とその守ったつもりの元教え子に刺されたんてさ。お笑いぐさですよ。『俺の事なんて放っておいてくれ』とか言って、年少行きになったらしいッスよ。まあ今頃は娑婆でのうのうと暮らしてる筈ですぜ。人ひとり殺めておいて」
「ヤクザ稼業に足を突っ込んでる人間が人様を批判出来ねぇだろ」
「そりゃそうですけどね。いっそ爺さんがサンタクロースなら笑えるのに」
「ヤクザ稼業の孫を持つサンタクロースかよ」
「傑作でしょ」
「ならオイラは映画監督の爺さんがいいな」
「蟹名の兄貴の爺さんは?」
「二人共知らん。顔も素姓も」
「そんなもんですか」
「そんなもんだよ。亡くなった兄貴分なんて母親の記憶も殆ど無い孤児院暮らしだ。昨日出向いたあの養護施設だ」
「寒々しい港の街でしたね」
「あれでも戦後はかなり活気が溢れていたらしい。今じゃ漁業も寂れて、ちょいと名の知れたソフトウェアの会社と、街に不似合いなデカい病院が丘の上にあるだけの街だがな」
「そう言えば確かあの街の弱小高校が甲子園へ行きましたね」
「そうなのか」
「まあ、一回戦あたりで消えた筈ですが。今日日多少投手一人が良くても打てなきゃ勝てませんよ。プロ化して分業制ですからね」
「俺達の世界が多分一番分業化が進んでるな」
「違いねえですね、そのうち血の気の多い若い連中をそそのかしてヤクザ甲子園でドラフトしますか」
「そしたらオメエが最初に戦力外通告されちまうぜ」
「それヤバいッスよ。シャレになってませんぜ」
シャレも何も本音だよ。

赤と緑の装飾に浮かれた山間の小都市の通りを抜けると、兄貴が絶命した更地の駐車場…今は小綺麗な五階建てのショッピングビルに様変わりした場所に辿り着く。
ビルの脇のスペースにハザードを着けて車を停めると、後部座席に置いておいた花束を持ってビル横へ行き、壁に立てかけて、線香の束にジッポで火を点ける。

オイラタバコは吸わないが、兄貴分達のタバコに火を点灯(つ)ける為の一品だ。あくまでジッポなのは趣味だが

「昨日アニキの故郷、忘れたがっていた街を訪れて来ましたぜ」
オイラは膝を折ったまま両手を合わせて目を閉じる。
舎弟も後ろで慌てて両手を合わせる。


「あの、どなたかここで亡くなったんですか?」
振り返るとそこには派手な髪の毛と服装をした女が一人立っていた。

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