くまだから人外日記

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【偽書】『四つのクロノス・その1(高山三奈帆のKYOUJI)』 16

2014-10-14 01:47:53 | 【偽書】シリーズ
「完璧にお眼鏡にかなったのでは?大プロデューサー様の」
「ケッ。まだまだケツの青いネーチャン達だ。グループとしてはかなり稚拙だが、あの詞曲を書いてるギターの娘は磨けば光るな。あくまでも“磨けば”だがな」
「良かったですねぇ。無駄足にならず。何せこのギグのチケットは経費では落ちませんしね」
「たかだかアマチュアの千円単位の入場料だろ」
「まあ、安い駄賃でしたね。チケット代、後で返して下さいよ」
「最近もうろくしてるから明日覚えていたらな」
「勘弁して下さいよ。安月給でその上プライベートタイムを潰した上に二人分のチケット代まで」
「安い駄賃だったんだろ。迷マネージャー様、よ」
「はぁ…人使いの荒い会社だ」
「人で良かったろ。ウチの“商品”ならもっと手荒い扱いを受けるぜ。んじゃ明日事務所でな」
季節感無視の白いロングパンツの男はスーツをビシッと着込んだ連れの男に言い放ち街に消えて行った。





「あーあ。これはかなり荒れちゃってるわね~」
肌のお手入れには敏感に反応するお年頃の女子校生にあって、学園の水と氷の妖精の異名を持つ皐月明は師走未宗加の両手を取って手の甲を撫でて言う。
「また何で皿洗いなんて古風なバイトを」
「古風じゃないよ、メイ。“普通”のバイトだよ」
鞄から舶来のハンドクリームを取り出して師走未宗加の手の甲に塗り付ける皐月明に向かって言う。
「今日日女子校生がこんな手していたら、恋のチャンスも素通りしちゃうわよ。そりゃ私はサカエのバイトのオマケみたいなものだけどさ~」
新製品の清涼飲料水のキャンペーンガール転じて今やその新製品を一気飲みする事で販売を伸ばしている“炭酸飲料で育った娘”水無月栄とバイトをするメイは笑う。
「恋は手でするものじゃないだろ」
「バカね、ミソカ。彼氏が喜んで女子校生の手を握って来た時、あかぎれだらけの手じゃ百年の恋も醒めちゃうでしょ」
「それならシンデレラの立場は」
「彼女はちゃんと魔法使いのおばーちゃんが魔法でドレスとカボチャの馬車と硝子の靴を出してくれるから大丈夫。ミソカは自分の手の心配をしていればいいのよ」
メイは丹念にハンドクリームを塗ると、はいお終いと言ってミソカの手を机に戻す。

「私達はね、魔法の杖も王子様もこの手で掴まなくちゃならないの。プリンセスみたく口を開けて待っていても、やって来るのは夕焼けだけよ」

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