ここ数年、自治体の仕事で青森県や秋田県によく行きます。
以下は、12月初旬に1人で弘前の小料理屋に入った時の話。
のれんをくぐって店に入ると、
「すいません。10時までなので。」と店のご主人。時計を見ると、すでに9時30分を過ぎていました。、
翌日の仕事のために夕方に東京を出て、現地のホテルに到着後すぐに荷物を置いて出てもこんな時間になってしまうのですね。
「生ビール一杯とつまみ程度で良いのですけど。」と返すと、
「なら、どうぞ。」とご主人
まだ雪は積もっていませんが、かなり寒い日だったので店に入れたことにまずはほっとし、改めて店の中を確認。私が座ったカウンターと2、3席あるセーブルには他の客はいません。ただし、奥のふすまの先からは話し声が聞こえているので、座敷には何人かいるようです。
私は、カウンターに座り注文を済ませ、「これで、約30分はゆっくりできる。」と思いながら、自分のタブレットを見始めました。
その内、10時近くになり、奥の客も帰ったので、
「そろそろ、お会計お願いします。」と頼むと、
「もう少しゆっくりしていてもいいですよ。」とご主人、続けて、
「お客さんはどちらから、」という質問に、
「東京からです。三鷹というところです。」と答えると、
「私も、以前東京に住んでいたのですよ。中央線沿線なので三鷹も知っています。」とご主人。
聞くところによると、若いころは東京の料理屋で修業をしていたそうです。その内、店も任されるようになり、最後は平河町の料理屋で店長をしていたそうです。土地柄、土日の客は少ないけれど平日は結構賑わっていたらしい。しかし、徐々に店長の職がプレッシャーとなっていったようです。
「店長の仕事が重荷になってね、ついに通勤できなくなってしまったのですよ。」とご主人。
「大変だったのですね。」と私。
「当時はね。結局、店を辞めて弘前に戻ってきました。」
その話を聞いて、改めて店の様子を確認。奥様と(たぶん)娘さんで店を切り盛りしている様子。私がこの店を知ったのも宿泊するビジネスホテルに勧められたからなので、それなりに評判なのだろうと思いつつ、
「でも、弘前にこんな素敵な店を開けて良かったではないですか。」
「戻った後もいろいろあったけど、今は良かったですかね。」
その後もいろいろと話は弾み、あっという間に11時近くになってしまった。結局、
「いろいろな話ありがとうございました。また、来ます。」と告げて店を出てきたのは11時過ぎ。
弘前の冬は寒いけれど、少しあったかい気持ちになった夜でした。そして、いつかまたこの店に来たいと思ったひと時でした。きっとご主人は覚えていないと思うけれど、それはそれで良いですね。