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ジェシル、ボディガードになる 175 FINAL

2021年07月23日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ジェシルは大きく伸びをした。ジェシルは宇宙パトロール本部の自分のオフィスに居た。
 オーランド・ゼムの宇宙船を爆破した後、その残骸処理を本部の連中と共に行った。残骸から、オーランド・ゼムのアジト一覧を発見し、軍の協力も得て(ジェシルが評議院の叔父をけしかけたのだ)掃討作戦が繰り広げられた。ジェシルも参加し、大いに暴れて、アジトを壊滅させた。久々に爽快感を味わったジェシルだった。
 アーセルの死を、店のマスターたちに伝えに行った時、マスターはじっと話を聞いていたが、突然大声で泣き出した。一緒に居たメリンダとエリスとダーラが懸命に慰めていた。……あんなスケベじじいでも、慕われていたのねぇ。ジェシルは意外な思いだった。マスターは、細々ながら店を続けて行くと言っていた。メリンダたちも共に働くと、マスターを励ましていた。
 次期職員採用の件で問い合わせがあったようだ。「エインドンマルシアーナビラントンヌール」と名乗る若い娘だった。……ノラだわ。あの娘、本気で宇宙パトロールを受ける気なのね。ジェシルは、ノラが異常なまでに自分を慕う様子を思い出し、苦笑する。
 ムハンマイドは、一民間人の協力者としての役目を終え、再び研究や発明の日々に戻った。
 ジェシルは、今回の事件がすべて片付いたので、その疲れを癒すため、長期の休暇を取得した所だった。
 制服を脱ぎ、下着姿になる。ジョウンズに付けられた脇腹の傷もすっかり消え、いつものジェシルの滑らかな肌に戻っていた。ミュウミュウに好い様に殴られた顔も、しばらくは赤く腫れていたが、それも治まった。……やっぱり、わたしが撃ちたかったわ。ジェシルはミュウミュウの残忍な笑みを思い出し、べえと舌を出してみせた。
 ジェシルは、クローゼットからフリソデを取り出して羽織ると、持ち込んでいるソファに寝転がった。
「……久しぶりに、辺境の惑星の地球に行ってみようかな?」寝転がったジェシルは天井を見ながら、組んだ足をぶらぶらさせる。フリソデの前はすっかり肌蹴ている。「あそこでは、わたしは知られていないから、ゆっくり出来るのよねぇ……」
 と、机上のインターホンが鳴った。ジェシルは放っておいた。休暇を習得したばかりなのだ。出てやる義理は無い。それに、いずれは諦めて鳴り止むだろうからだ。しかし、いつまでも鳴り止まない。
「……こんなにしつこいのは、間違いなくトールメン部長だわ」
 ジェシルはむっとしながらソファから起き上がり、インターホンを操作する。
「わたしだ、トールメンだ。出るのが遅いぞ。緊急だったらどうするつもりなんだね?」
 相手はやはりトールメン部長だった。いつもの嫌味にジェシルはうんざりした顔をする。
「それで、何の用ですか? 緊急なんですか?」
「そうではないが、ジェシル、今からわたしのオフィスに来たまえ」
「わたし、休暇中ですけど? それに、緊急じゃないんなら、休暇明けで良いじゃないですか」
「君に会いたいと言う人物が来ている」
 トールメン部長はジェシルの文句を無視して言う。ジェシルはむっとする。
「誰です?」
「来れば分かる」
 インターホンは切れた。ジェシルは思い切りぶんむくれる。
「何よ! 休暇中なんだから、一言『申し訳ない』があっても良いんじゃないの! それに何よ、あの思わせ振りな言い方! あんな言い方をされたら、行かなくちゃならないじゃない!」
 ジェシルは見えない熱線銃をトールメン部長に乱射する。原形を留めないトールメン部長の姿を思い描き、何となく気が晴れた。
 ジェシルはフリソデを脱いで、制服に着替える。前のものは、腹部が焼けてしまっていたし、あちこちに綻びも出来ていた。なので、新調されたものだった。気のせいか、からだの線が、より強調されたように思われた。腰にホルスターベルトを巻き、メルカトール熱線銃を落とし込む。これはドクター・ジェレマイアの新作だ。
「あんな下らない拘束具を、あんな下らないヤツのために作ったんだから、当然。わたしに罪ほろぼしをすべきよねぇ?」
 ジェシルは、ドクターがオーランド・ゼムのために作った拘束具で、イヤな目に遭ったことをねちねちと責め立てて、新作の熱線銃を作ってもらった(実際には作らせた)。今度のは光線銃にも切り替えられる代物だった。
 ジェシルはオフィスを出て通路を歩いていると、カルースとばったり出会った。
「ジェシル、大変だったそうだな」カルースがいつもの低い声で言うと、笑った。「だが、犯罪は減ったよ。ほら、例の『観ているみんな! 悪い事をしちゃダメだぞう! 以上、宇宙パトロー捜査官、ジェシル・アンでしたぁ!』ってヤツのお蔭さ。噂だと、あれで長官賞がもらえるらしいぜ。トロフィーと賞金だってさ」
「別に嬉しくないわ!」ジェシルはむっとする。……ミルカのヤツめぇ! ジェシルはカメラを構えたミルカを思い出す。「話は終わりね? じゃあ、わたし急いでいるから」
 ジェシルはカルースを残して通路を進み、トールメン部長のオフィスドアの前に立った。ジェシルは深呼吸をする。イヤなイヤな部長に、また会わなければならないのだ。心の準備が必要になる。
「……ジェシル・アン捜査官で~す」
 ジェシルはわざとふざけた言い方をする。トールメン部長のむっとした顔を想像する(実際は、全くと言って良いほどに表情は変わらないのだが)。ドアが開いた。ジェシルは入室する。そこに見覚えのある顔が居た。
「ムハンマイド!」ジェシルは驚いた顔をする。「どうしたの? こんな所に来て? 何か悪い事をして捕まっちゃったの?」
「相変わらず口が悪いな、君は……」ムハンマイドは呆れる。「別にボクは犯罪を犯したわけではないよ」
「じゃあ、何をしに来たの?」
 と、ドアが開いた。トールメン部長が立ち上がる。ジェシルが振り返ると、ビョンドル長官が入って来た。
「長官、どうしたんです? また、昔なじみのシンジケートの大ボスが、何か言ってきたんですか?」
「そう責めるな、ジェシル」ビョンドル長官はうんざりとした顔をする。「悪かったと、何度も言っただろう?」
「それじゃ、何なんです?」
「このムハンマイド君だがね」ビョンドル長官はムハンマイドの肩をぽんと叩く。「この度、宇宙パトロールの開発部に入ってもらった。武器に限らず、様々なものを作ってもらう。それと、宇宙一の天才と言われているので、事件捜査などにも積極的に関わってもらう」
「……と、言うわけだ」ムハンマイドはジェシルに言う。「よろしくな」
「ええ、こちらこそ…… 話は終わりかしら? わたしは休暇を取ったのよね。これから辺境惑星の地球にでも行ってみようと思うの。じゃあ、そう言う事で……」
「あ、ちょっと待った」ムハンマイドは立ち去ろうとするジェシルを止めた。「もう一人、会って欲しい人物がいるんだ」
「誰?」
「おーい、入っておいで!」ムハンマイドはドアに向かって呼びかけた。ドアが開いた。「彼の事さ」
 ジェシルの表情がぱっと明るくなった。そこにはハービィが立っていたのだ。相変わらず、ぎぎぎと音を立て、がちゃがちゃと足音高く歩いて来る。
「君が宇宙パトロールの戻った後、あちこち探索してみたら、ハービィの頭を見つけたんだ。幸い、ほとんど無傷だった。それで、以前のハービィそのままのからだを作ってみたのさ」
「やあ、ハニー、元気だったか」ハービィが、ぎぎぎと音を立てながらジェシルに顔を向ける。声も以前と変わらない。「わがはいはムハンマイドの助手として、共に働くのだ。そして、わがはいがジェシルを守る」
 ジェシルは、今まで誰にも見せた事の無い、優しい笑顔をハービィに向けた。
 

おしまい


作者註:長かったですね。これが一番の反省点でしょうかね。もっとコンパクトに出来たのかもしれませんが、まあ、成り行きでこうなってしまいました。お付合い頂きました皆様、感謝しております。これからもよろしくお願いをいたしまする~

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