泉心堂治療院

せんしんどうちりょういん

2023年を迎えて

2023年01月05日 | Weblog

2023年の卯年を迎えました。

今年、私は4回目の年男です。

30年前の春、私は高校を卒業し、針灸の道を歩み始めました。

振り返ってみれば、生活のためもあるとはいえ

自分の性格で一つの物事をこんなに長く続けてこられたのは

奇跡としか言いようがありません。

 

私は48年前の卯年に誕生し、36年前の卯年に中学校に入学しました。

24年前の卯年は台湾での留学生活をスタートさせました。

12年前の卯年には東日本大震災が発生しました。

これまでを振り返ってみると、卯年には転機となる出来事が多かったような気がします。

とにかく今年こそは平穏無事に過ごしたいものです。

・・・とはいってもコロナ禍はまもなく4年目に突入し、ウクライナの戦争も年を越し、

昨年から不穏な雰囲気が世界全体を覆い続け、日本にも様々な影響を与えています。

そのような状況で今後自分はどのようにすべきなのか⁇

小さな小さな治療院を経営する立場とはいえ、巡る思いは尽きません。

 

そういえば、以前にお笑い芸人・ダンディ坂野さんのインタビュー記事を読みました。

そこで印象に残ったのは「変わらないための努力」を意識されていることです。

ご本人曰く「僕にとっての向上心とは一定を保つこと」

でも、そのために大金を投ずるとか大掛かりなことをするのではなく、

自分でできる範囲の事を継続して実践されているようです。

つまりは「見えない努力・さりげない努力」です。

彼はこうも言っています「これくらいでいいやっていう気持ちでやっていると、質が下がっていく」

恐らく、多くの人はたまにテレビなどのメディアで彼を見かけても

「相変わらずだな~」と思う程度なのだと思います。

しかし、何年経っても「相変わらずだな~」と思ってもらえるには、

妥協していてはダメなのですね。

 

「変わらないための努力」

これが次の年男(還暦)を迎えるまでの私のキーワードになるような気がします。

もちろん、変わらないこととマンネリ化は違います。

「あの先生に頼めば何とかしてくれる」

その信頼感・安心感に変わらず応え続けるためには、

成長という変化を続ける努力が求められます。

 

例えば、10年前に腰痛の施術を受けて良くなった人が、

再び腰痛になって来院されたとします。

ご本人にとって、私は10年前に腰痛を良くしてくれた先生です。

しかし、同じ腰痛であっても、10年前と現在では状態が違うかもしれません。

10年経てば体はそれだけ老化するし、

女性ならば妊娠出産や更年期などを経れば身体の状況が変化するなど、

様々な条件が重なって10年前よりも難しくなっているかもしれません。

それでも10年前と同じく信頼に応え、安心してもらうことができなければ

期待を裏切ってしまうことになります。

そして、10年前と全く同じことをやっていたのでは、

「今」の期待に応えることができない可能性があります。

そうならないよう、常に次の10年後に備えてコツコツと努力を積み重ね

成長という変化を続ける必要があるのです。

 

信頼感・安心感という根本的なものを変えないための変化。

そのためにやるべきことを模索し続けたいと思っております。

 

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます!!


2022年を迎えて

2022年01月03日 | Weblog

昨年、大学で同じ部活だった同い年の同級生が膵臓癌で亡くなりました。

数年に一度OB会で顔を合わせる程度の仲ではありましたが、

それでも卒業以来、同じ時間軸で生きていること、

そしてこれからも生きていくことが当たり前だと思っていました。

その甘い認識が脆くも突き崩された瞬間でした。

 

そうでなくても昨年は新型コロナウイルスの感染拡大による医療逼迫によって

自身や身近な人が感染した場合に適切な医療が受けられるだろうかという不安がよぎりました。

 

そして世界ではコロナショックを皮切りに

原価高騰、物流の停滞など諸々の事情による値段の上昇や品薄の傾向が話題となりました。

 

当たり前のように守れたはずの命が守れなくなるかもしれない。

当たり前のように手に入った物が手に入らなくなる。

今まで当たり前だったことが当たり前でなくなってくる。

その始まりが2021年だったような気がします。

 

2022年は当たり前でなくなったことが逆に当たり前になるのかもしれません。

そして例えば病気になってから健康のありがたさが分かるように、

当たり前が当たり前でなくなって

当たり前であったことの貴重さ、有難さが身に染みて分かるのでしょう。

 

当たり前の価値や意味を見つめ直し、

自分や治療院という存在がどうあるべきなのか考えてみたいと思います。

本年もよろしくお願い申し上げます。


漢方薬と無用の用:道の医学

2021年11月24日 | Weblog

漢方薬は動植物・鉱物由来の生薬の組み合わせによって処方されます。

例えば、初期のカゼに良く用いられる「葛根湯」は

「葛根、大棗、麻黄、甘草、桂皮、芍薬、生姜」

という7種類の生薬で構成されています。

それぞれの生薬には役割(薬効)があり、

それらが組み合わさることで

それぞれの作用を高め合ったり副作用や効きすぎを抑えたりして

効果が高く害の少なくなるようにバランスをとっています。

 

この漢方薬についても「無用の用」で説明することができます。

漢方薬の処方を構成する生薬は「器」のパーツようなものです。

一つ一つの生薬がパーツとなって「器」を構成し、

その器の中から生み出されたもの、つまり「無用の用」こそが、

例えば葛根湯ならば初期のカゼを治す「効き目」となります。

 

また、実際に漢方薬を処方する時には

患者の体質や病状に合わせて生薬の量や種類を調整する場合があります。

いわゆる「さじ加減」によって薬を一人一人の患者にあった「器」に仕上げます。

 

このように、漢方薬においても「無用の用」が根づいているのです。

 

 


動中の静と無用の用

2021年08月18日 | Weblog

「独楽」を静止状態で立たせようとするのは至難の業です。

しかし、高速で回転させてやると、独楽は起立状態を保つことできます。

つまり動きによって安定が生じるのです。

そして独楽の形は回転時の安定を保つための重要な要素です。

いびつな形の独楽では不安定な回転でバランスを保つことができず、すぐに倒れてしまいます。

 

独楽が起立する際の軸は、回転という動きの中での安定よって生み出されたものです。

それはすなわち「動中の静」であるといえます。

そして「動中の静」は回転する独楽における「無用の用」であるといえます。

回転している時のみに出現する「無用の用」です。

 

人間の身体は、エネルギーが常に循環することによって、バランス・恒常性が保たれています。

つまり、エネルギー循環という「動」により、

バランス・恒常性という「静=無用の用」が生み出され、保たれます。

そしてエネルギー循環などの「動」に乱れが生じたとき、

「静」すなわちバランス・恒常性にはひずみや乱れが発生すると考えます。

 

「動」であるエネルギー循環の乱れを察知し、調えることで、

「無用の用」である「静」のバランス・恒常性の乱れを復元させることが、

道の医学の原則でもあるのです。

 

このように、道の医学において

「無用の用」を生み出す「器」は「形=物体」だけではなく、

エネルギー循環などの「動」としても存在するのです。


大局と小局:循環と道の医学(3)

2021年04月28日 | Weblog

全体のありさまを「大局」とすると、

限られた範囲のありさまは「小局」といえると思います。

身体の場合では「全身=全体」に対して「局所=部分」という言葉が一般に使われます。

また、「大局」とは全体であったり、長いスパンの時間でのことであるのに対し、

「小局」は部分的、短期間でのことであるといえます。

 

一般に、物事の「小局」にとらわれると「大局」を見失うと言われますが、

中国医学では、身体の健康や病気に対して大局的観点をもってとらえることが重視されています。

病気を身体全体や、長いスパンから見つめて解決に導き、

身体全体の健康が安定して維持し続けられるようにします。

中国医学は「病気ではなく病人を診る」と言われるゆえんです。

 

一方で「大局」を把握するためには、その時その時における「小局」をしっかり把握することが大切です。

また、「大局」を動かすためには、まず「小局」から取り掛かる必要があります。

身体についても、「全身」を把握するために「局所」に注意を払う必要や、

「全身」を改善させるために「局所」からの改善が必要な場合があります。

「大局と小局」、「全身と局所」が自在に把握できるのが理想でしょう。

 

循環も同様です。

小循環である局所ばかりで循環させていると

大循環である全体に行き渡らなくなる可能性があります。

同時に、局所(小循環)の隅々まで行き渡っている状態が、

全体(大循環)に行き渡っているという状態であるといえます。

そのためには、全体から局所、局所から全体へのバトンタッチがスムーズに行われる必要があります。

また、短いスパンでの好転の積み重ねが、長いスパンでの好転・安定につながります。

それらを把握し、導くことが「道の医学」の役割となります。