月刊オダサガ増刊号

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14話 1977年の中二病

2017-12-15 20:07:56 | 僕達のホテルカリフォルニア~1977年の中二病
僕達のホテルカリフォルニア~1977年の中二病 14


「それってニューキッドインタウンより古いの?」彰太はさっきから質問ばかり繰り返している。

「同じアルバム。シングルとしてはニューキッドインタウンより新しい」不機嫌そうな坂畑だが、なぜか懇切丁寧に教えてくれる。

「え?だって、ポップスベストテンでは今、ニューキッドインタウンが最新シングルだって言ってたよ」
「日本ではそうだけど、アメリカではホテルカリフォルニアがニューシングルなの」

「坂畑さん、もしかしてアメリカ人?」
「んなわけないでしょ」
「だよね」
「これに書いてある」

 それはFMレコパルという、彰太の知らない雑誌だった。

「あのさ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「そのカセット、一日でいいから貸してくれないかな」

 坂畑はしばらく考えていた。「いいけど、あんたの家、カセット何台あるの?」

「一台」
「じゃあ録音できないじゃん」

 あ、そういえば。

「あたし、レコード持ってるから、そっちを貸してあげるよ」
「日本では未発売のニューシングル?すごいね」
「バカ。LPに決まってるじゃない」
「あそっか、イーグルスの新しいアルバムが出てるんだ。なんていうタイトル?」

 坂畑は黙って歩き始めた。彰太と床山はおそるおそる、うしろについて行く。

 校門を出た坂畑は駅の方に向かって、雨の中を歩き始めた。彰太の家とは逆方向だ。

 中学と駅の中間くらいのところにある、2階建てのアパートの前で坂畑は止まった。

「ここで待ってて」

 アパートの階段を昇って廊下に姿を消した坂畑は、すぐに戻ってきた。

「はいこれ」

 LPのジャケットには「ホテルカリフォルニア」と書かれていた。

 アルバムのタイトルがシングルなわけか。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 坂畑って噂とはなんか違うような……。

「あと、傘、2本しかないけど、こっちの黒いのをふたりで使って」

 気遣い?

「月曜日には返す」

「傘はあげる」

「レコードだよ」

「急がなくてもいいから」坂畑はアパートには入らず、真っ赤な傘をさして、駅に向かって歩いていった。

 彰太と床山は、呆然として、坂畑のうしろ姿を見送っていた。

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