水の流れる音で目を覚ますと、木漏れ日が優しく差し込んできた。青々とした瑞々しい葉が揺れている。
どうやら夢を見ていたようで、先ほどまで見ていた情景からの急な転換に頭が追いつかない。どんな夢かは思い出せないが、眦がかすかに濡れていたので、痛みや悲しみを伴うものだったのかもしれない。
体を起こすと、自分に影を差していた樹は、とても大きなものだったことが分かった。私が寝転んでも、足先まで影が下りているし、あと二人は余裕で日陰を堪能できそうな広さなのだ。
「おかえりなさい、ユグドラシルの子」
声が響いた。
「哀しい夢でしたね」
「分かるの?」
「貴方の母ですから」
風が頬を撫でた。何故かも分からないが、ああ、還ってきたのだ、と、そう思った。
「ユグドラシルの子よ、今はおやすみなさい。いずれ迎えが来ますよ」
「お迎え?」
「そうです。貴方を愛し、貴方に愛される者。新しきユグドの父なる者です」
目眩と眠気が襲ってくる。でも、それは好都合だと思った。哀しい夢を、思い出してしまいそうだったから。
「だから、おやすみなさい。やさしい夢を見させてあげましょう」
ありがとう。それは言葉になったかは分からないが、ひとつ思い出した。
私を迎えに来る、男の名前を。