野犬さとうじょにぃ。2

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the homing instinct childish. 3

2014-09-26 01:49:18 | 小説
~登場人物紹介~


Johnny.

age,17

sex,?

Jenny.

age,13

sex,w


Riko.

age,17

sex,w


Miu.

age,12

sex,w


Kyo.

age,27

sex,M


HARU.

age,?

sex,?


この子たちが


これから


どのように


動くのか


ゾクゾク


しています。


乞うご期待。。。

2.

2013-11-07 03:33:13 | 小説
揺れる視界、一本橋のブロック塀をバランスもあやふやにそれでも出来るだけ慎重に足を進めて行く。

ミニスカートにハイソックス、ローファーという出で立ちは心もとない気もしたが、一度帰って着替えでもするなら日も暮れてしまうからまた日を改めなければならないということになる。
少しでも早く、今日でなきゃ駄目だという直感だけで完全には拭いきれない不安を抑えながら進む。

足元は少しずつ深い草叢に覆われていく。昨日の夜中に降った雨で濡れた草に足を取られる。


多分世の中には感じる人間とそうでない人間がいるのではないかという気がする。
そしてそれはすべての人間がすべてに於いてそうだというわけではなく、そこだけに特別に感じるということだ。
それはアンテナという言葉よりも触角という言葉が合うように思う。

ふと行き先付近に生き物の気配を感じる。
足を止めそこら辺りを凝視する。
すでに夜風が混じり始めた緩やかな風が吹いているとしてもそこだけ草がざわめいていて何か温度が違うことがわかる。

草を揺らし、唐突に顔を現したのは一匹の黒猫。
あぁ、なんだ、と体半分で安堵のため息をつく。
猫は少し離れた場所からじっとこちらを擬視している。
深い緑のビー玉のような縁取りに漆黒の真ん丸い目をしている。
うわぁ...綺麗...そう感じた瞬間殆んど反射的に体が動く。
一本橋から落ちないように右手はフェンスに絡ませゆっくり屈んで左手を伸ばして呼んでみる。
「ねこちゃん」
反応はない。
黒猫はそこに立ち止まりこちらを身動ぎもせず凝視している。
なんて綺麗な目だろう。

「おいで、おいでねこちゃん」
出来るだけ優しい声で口元だけの笑顔を作ってもう一度言ってみる。

一瞬の間を置いて、

え...?
猫がため息をついた?

呆気に取られていると猫は草叢の中で鮮やかに身を翻し(その瞬間体の全像が一瞬見えそれはかなり大きな猫であることがわかる)

そして草叢の中をサワサワと遠退いて行くのがわかった。

「なによ...猫は好きだし動物には好かれるタチなんだけどな」
不安とさっきのビビりに硬直した体と頭を解放するようにわざと声に出して言ってみる。
まぁいいやとゆっくり体制を元に戻す。

キーンコーンカーンコーン。

学校のチャイムが耳に入る。
その音でハッと我に帰る。
気付けば空は夜の色に近く、薄い紫色で遠く離れた住宅街の黒い影の上には白くて人差し指でそっと押すだけでパキンと折れてしまいそうな細い月が出ている。
急がなくちゃ。

草叢に足を取られながら進む。

やがてその全貌が徐々に姿を現す。

近付けば近付くほど、見た目はなんてことのない、例えば小学校の校庭の外れに鎮座する屋外プールの機械操作室だとか、田舎町の外れにありそうな使われているんだかとっくの昔に役目を終えていて放置されているんだかわからなく、また誰の目にも取り立てて留まらないような変電所、的な?変哲もないコンクリートで塗り固められた灰色の小屋だ。

だけど一歩ずつ近付く度に確実に感じるこの気配は、そこに生命の存在を証明する明らかな温度の違いだ。

ただ、それがどんなものであるのかが厚い灰色の壁に完全に遮断されているからなのかどうしてもわからない。



ーーー夢の中であたしは真っ暗な空間に一人でいた。
浮いているのかどこかに立っているのかもわからない、ただ360度の真っ黒な空間だ。

怖い夢なのかなにか楽しい夢なのかもわからない。

ただそこでなにかの叫び声を聞いた。

ケモノ?
人間?
判別はつかなかったがとにかくその声のする方向へ走り出そうとした。

その時に足元でパキン、と小さな何かが壊れる音がして目が覚めるとそこは自分の部屋でいつものベッドで、夢なんだと気付いた。
そしてそれがただの夢で終らせていいものではないということを同時に直感する。
胸がチリチリと身体の中にしか響かないほど微かに小さく、だけどそこ一点だけが真っ赤な石炭の粒でも置かれたみたいに焼けるように熱く、痛かった。
それがあたしのみた夢の話だ。ーーー


小屋に着く。
小屋の周りはさらに背の高い雑草で覆われている。
壁に手が届くまで腕の長さ×2が必要な距離にいて自分の背の丈程もある雑草に阻まれこれまでかと思いながら、その距離を保ち小屋の周りを一周してみる。

ちょうど太陽からは影になる、住宅街や学校の方向を表とするならば、真後ろの方向に小さな子供なら身を縮めず出入りできるんじゃないかというくらいの大きさのドアを発見する。

草に覆われて、屋根からの長年と思しき赤サビの流れに染まって最低でもこれくらいの至近距離でないとそれがドアだとはわからないだろうっていうくらい馴染んでしまっている。

念のため更にもう一周してみるも、出入り口と思しきものはどうやらそれしかないようだ。

しばしドアを前に突っ立って考察...
うーん。
農機具なんかをしまっておく小屋としても出入り口は人が通る訳だからどう考えても不自然なのである。
というか考えれば考えるほどそれは不自然なのである。
物置にしても、自転車置き場にしても...
それに足元は見えないのだから横幅のサイズから推測するならばドアは地面から浮いていることになる。

今更になってまた別の恐怖心が襲ってくる。

なんでナンデなんで?

と言っていても日は暮れる一方だ、えぇい!と勢いと瞬発力だけを武器に一気に草を掻き分けついにドアに触れた。冷たい。
草に指を何カ所か切られた。


ドアはやはり地面から浮いていた。

ゾワッ...

そしてその不自然に小さなドアは何重にも錆びた鎖で封鎖され大きないかにも硬そうな南京錠がひとつ、かけられていた。

もはやここまでか?

一刻と迫る日暮れに心細さや恐怖もあってや、やめちゃおっかなぁ、なんて思ってみたりして、えーえー、あたしはスーパーマンでもなけりゃあ超能力者でもない、ちょっと感覚が、あるもの限定で働くというか、そんなのスイーツ好きの女子がおいしいスイーツのお店を知ってるようなことと大差ないようなことで...


コンコン、とまずは遠慮がちに人差し指でドアを鳴らしてみる。

反応無し。

ゴンゴン、今度はコブシでいってみる。

反応無し。

うーん。

アルジは留守ってかー




ハル。

え?

ハル。

頭に音が響く。

ハル?

ハルなの?

あなたはハルなの?

気が付くとあたしは真っ黒闇の中でドアを力の限り叩きながらハル、ハル!と叫んでいた。

微かな鼓動が伝わる。
明らかにそこだけ温度が違う。

「ハル、ハル、あたしだよ、あたしなの!出てきてよハル!」

叫びながらドアを叩き続けいつの間にかあたしは泣いていた。

ハルなんて友達はあたしにはいない。
ただ頭に響いた声はとても親密なもので、それがあたしには一番近くにあるものだということだけがはっきりとわかったのだ。


...かれたんだ...

何?聞こえないよ、お願い、応えて!

中から微かに伝わる鼓動というべきか呼吸というべきか、とにかく生命そのものが、堕ちていくように、少しずつゆっくりだけど確実に遠退いて行くのがわかる。


ハル...

あたしはその場にへたり込む。
泣き崩れて。

ここまで辿り着いたのに、これ以上何も出来ないというの?

ハルが何なのか、人間なのか、生命に似た何かを持つ他の存在なのかもわからない。

それでも微かに堕ちていく鼓動に耳を研ぎ澄ませながら泣き声のまま呼び続けてみる。


その時突然パッと大きな光があたしを照らす。
たまたま通りかかった車のライトだった。
草叢に埋もれてるあたしになんか気付くはずもなく車はただ通り過ぎて行った。


そして意識をドアの内部に注いでみたけれどそれきり中から伝わる鼓動はパタリと消えてしまった。

あたしは成す術もなく、ただ泣きながら家路に着いた。

悲しいのかなんなのか、この涙の意味はわからないけれど、どうしてか涙はいつまでも止まらなかった。
ただ溢れた。

今まで生きてきた中でそれは初めての感覚だった。

どこをどう歩いたのかもわからず、家に着いて重い玄関をガチャリと開けると妹の弥生(みう)が玄関まですっ飛んで来た。

「ちょっとおねーちゃん夕食当番サボってこんな時間まで何して...」

あたしを見る弥生の目が爪先から頭のてっぺんまで注がれ、弥生は言葉を失った。

汚れた制服にコートに髪もぐちゃぐちゃ、頬や手には無数の切り傷が生々しくズキズキとしていた。

「おねーちゃん...?」


うちに両親はいない。
ベッドタウンと言えど都心に近いそこそこ立派なマンションは母親が遺したもので、あたしと弥生はもう3年二人でそこに暮らしている。
父はあたしが小学生の時に病死しているし、女手ひとつで娘二人を育てて海外出張も多くほとんど家に居なかった母は去年出張先のロンドンで倒れ、過労死ということでそれは会社も認めざるを得ずその保険金やら遺族年金で今までの生活はなんとか成り立ってきた。


「おねーちゃん...何があったの?」

「うーん。てかケンカ?」
とっさに笑ってみせる。

「イッコ上の女でさ、前からあたしが気に食わないだとか、陰険な女がいるって言ってたじゃん。花村のことがずっと好き過ぎてあたしと花村の仲を疑ってる、そいつに絡まれて、メンドーくせーから成敗!」

弥生の顔が少し緩む。

「あたしの方が勿論優勢だったんだけどね、突き飛ばされた時に植え込みに倒れちゃって、これ」

「もー...」

弥生はそれを信じたか安心したように「おねーちゃんのヤンチャには慣れてますけどお年頃の女子なんだからもうちょっと考えてよねー。夕食は弥生特製きのこカレー。貸しひとつ!」
と言ってキッチンへ戻って行った。

とりあえず弥生には真実を悟られる様相はなく済んだ。ホッ。

帰り道はひとしきり泣いたので急にお腹が空いてきた。

キッチンへ小走りで行きカレーを温め直している弥生に後ろから抱きつく。
カレーのくつくつ煮える音と暖かい匂い、弥生が待っていてくれたこの家、思い切り愛しいと思った。
「弥生、ありがと」

「うわ、気色ワル!てかおねーちゃん、服汚い。お風呂入ってからじゃないとご飯食べさせないよ!」

はいはーい、と自室へ向かう。
背中越しに弥生が続ける。

「おねーちゃんに何かあったら弥生だって困るんだからね。笑いごとじゃ済まされない事もあるでしょ」

幼い時に次々と両親を亡くしているせいか、時々この子は世の中の母親が言いそうな(ドラマとかの受け売りだけど)ことをサラリと言う。

うん。と心の中で頷きながら自室へ入り背中でパタリとドアを閉める。

平和な日常に戻ってこれた気はするけど、あたしの中を占拠しているのはハル、と言った存在の事だった。

人間なのか、人間なら男なのか女なのか、それともあんな窓もない密室に閉じ込められているッてことは人工知能付きのアンドロイド?
フランケンシュタインみたいに失敗作で秘密結社とかに監禁されてて研究材料にされているとか?

今日一日のことがもしかして夢だったんじゃないかと思うくらい、いつもの自分の部屋は平凡な「日常」にあふれていた。

ベッドに倒れ込み、そんなことを考えているうちにあたしはうつらうつらしていつの間にか眠ってしまった。

遠くから弥生の声が聞こえる。

お風呂とかご飯とか多分言っているのだろうけど、弥生...さすがに今日は無理みたい。

デスクの上の写真立てのお母さんは笑っている。
春に向けて新しいプロジェクトが立ち上がりそれのチーフを任されていた母親は弥生の入学式には出られないと、真夏に母親が日本に帰ってきた時に代わりに、と3人で写真館を訪れ撮った物だ。

悲しいことにバックには母親の注文なのか、写真館の人が気をきかせたのか、桜の模様のスクリーン。

夢うつつに真夏の炎天下の下を3人で日陰ひとつない真っ白な坂道をのぼり、拭いても拭いても吹きだしてくる汗を拭いながら写真館を訪れた日の事をなんとなくあたしは思い出していた。


(続く)
















1.花村恭介。

2013-10-09 03:33:16 | 小説
祭りのあと、昨日までの騒ぎが嘘のように少し沈んだ校内で窓から見える空は秋雨前線と台風に続く鬱蒼とした灰色雲が立ち込める。

さっき教室まで帰ろうと迎えに来た璃子に今日は臨時のピアノレッスンなのだと断り璃子はそれじゃケーキは明日だねと少し残念そうに帰って行った。

許せ!と心の中で手を併せ璃子の後姿が階段に消えるまで見届け(階段を曲がる手前でこちらを振り返り小さく笑って手を振る。この子はなんたってこんなに育ちが良いのだろう)今にも零れ落ちそうな空の下、あたしの意気は揚々として晴れとはいかないまでも、鼻息荒くカバンを掴むと階段をガシガシと降りて行く。下駄箱で放り投げたローファーに潔く足を突っ込み代わりに上履きを下駄箱に投げ込む。

反動で落ちそうになるそれを無理矢理フタを叩きつけ抑える。
スチール製の冷たいフタはガツンと閉まる。
コートのライナーのチャックを下から上までびっちり閉め、表のボタンもがっちり閉める。

マフラーはいつもはくるんと一重巻にして後ろに垂らすが今日はそういう訳にはいかない。

ぐるんぐるんと二重巻にして首の後ろでしっかり結ぶ。


知る権利とやらを知るべき時が来たような気がする。

空気のにおいが変わって完全に冬になってしまえば、それは闘わず負けることを意味している、とその時あたしは思い込んでいたし、何よりもそういう鼻の効き方で失敗をしたことがないことも自信のひとつではあった。

渡り廊下からはるかそれを睨む。

フワリと隣に気配を感じた。

「や。」

振り向かなくても気配ですぐにわかるのだ。こいつだけは。

花村はボソッと呟く。

「やっぱり、とは思っていたけど」


あたしは何も応えずただ黙ってそれを見ていた。


花村は困ったような顔を一瞬した後、

憔悴しきった人のようにわざとらしく肩を落とし大きくて長い指をした手で顔を半分覆ってしまう。


綺麗な指。

あたしはこの人の指やこんな姿をずっと前に見た覚えがある。

例えばあたしにそんな記憶がなかったとしたら、あたしも彼の周りの多数の女の子達のように彼に好きだと、ただ好きだと思えたのだろうか。

記憶の上書きは出来ないから考えても仕方の無いことだと解ってはいても、花村の持つ天性の美しさはもしそうであったらどんなに良かっただろうか、と一瞬思わせあたしの胸を苦しくさせるのには充分だった。


暫くそうしたあと諦めたというように溜息をひとつ付き、花村はあたしに向き直る。
身長172センチのあたしに視線を合わせ183センチの花村は少し屈んで目を捉えて離さない。


「三石、」


「大丈夫だ。」





「お前には知る権利があるだろう。
本当なら俺も着いていきたいところだが結局そいつは野暮ってもんだ。」

勿論、と頷く。

「昨日夢をみたんだよ。」

花村はあたしの言葉を、いや言葉なんて例えそこに存在しないとしても彼はすべてを理解していた。

「大丈夫。」
そう言ってなんとか作り出した気弱な笑顔であたしの頭をポンポンとする。

他の男なら一発で回し蹴り炸裂なところだが、なぜかこの男のこういうことだけには平気だ。


「あのさ先生、金木犀、いつまで持つかなぁ?」
唐突に明るい声で言ってみる。

「雨か台風が来なけりゃ持って一週間か、」

「そう。」

「また一緒に見られるかもしれないね。」

そう明るく言うとお互い小さく笑って手を振り花村は職員室へ、あたしはその後姿を複雑な心境で見送る。
足音も聞こえなくなるとくるりと踵を返し、さぁ行くしかないよ!と自分に喝を入れる。

ずんずんと歩き体育館裏の自転車置き場を通り過ぎグランドのフェンスの脇に沿って歩く。

フェンス脇はブロック塀になっておりどことなく平均台を渡っているような不安定な気分にさせる。

視界が揺れる、

幼い頃に何処かの山で渡った心細い吊り橋に似ている、と思った。

でもあの時は父親が一緒だったし、一人ではなかった。


花村恭介の手の温度が頭の上で蘇る。
それは背中を押してくれる感じと同時に一人を際立たせあたしをとても悲しくさせた。

それでも引き返すことは出来ない。
あたしは知る権利があるのだ。
あの小屋に一体何の秘密があるのか、花村のあの顔の意味も、

知らない方が幸せだなんてことがこの世にはあるだろうか?



今思えばあの日あたしは16歳のまだほんの子供だった。

(続く)


the homing instinct childish.(プロローグ)

2013-10-07 03:33:44 | 小説
寒い冬のはじまりの夕暮れ。
ピアノ教室をサボろうと少し遅めに校舎から出て、友達の璃子と自転車を取りに行く。
外はどんよりとした灰色の空に冷たい風だ。

お嬢様学校に通う私たちはそれぞれ高級なコートにマフラーをしていた。

音楽堂から体育館に続く長い渡り廊下、金木犀の甘い香りが一帯に立ち込め、そこからグランドの向こうに灰色の小屋が見える。

「璃子、あれ何だか知ってる?」

「さぁ...でも近付いちゃいけないって先生達が、」

「ふぅん...」

ガチャリ、
自転車の鍵を外し通路まで押し出す。
璃子もそれに続く。

話題は明日から始まる文化祭の事に移っていた。

璃子のクラスはボーイズ喫茶、あたしのクラスはお化け屋敷。
璃子曰く「花村先生のホスト姿がヤバイ!」らしい。
こんな時女子校では若い男性教員はいいカモだ。

明くる日、朝から花火も盛大に文化祭は幕を開ける。
ここは名門有名私立お嬢様高等女学校。
開場前から門の前は興味深々の男の子達で溢れる。

お化け屋敷は大盛況、

やっと交代の休憩時間になって璃子のクラスを覗きに行く。

ドアのガラス越しにこっそり覗いてみるとおー、おー、勇ましいお姿。

身長こそ小さいが璃子はバランスがとても良い。

美男美女のカップルに褒められて後ろ姿からでもわかるくらい耳まで赤くしている。

小野寺璃子はその恵まれたいかにも可愛いらしい容姿とは裏腹、とてもシャイで控え目、そして簡単に人を信用したりしない用心深いところもあり、あたしはそんなところも気に入っている。

ま、問題なければそれでヨシ。
と一人屋上に上がる。

階段の途中でパックのコーヒー牛乳を買って胸ポケットからハイライトを取り出す。

父親が心筋梗塞で倒れて亡くなった時、あたしは小学生で、大人達が騒ぎ立てる中救急車が呼ばれ、病院で亡くなり、通夜から葬式まで一瞬だった。
倒れた時に手に持っていたハイライトとライターを落として、母親が気付いて悲鳴を上げた瞬間あたしはなぜだかそれを拾いあげ自分のポケットにさっと隠した。

葬儀の間もそれをずっとポケットの中で握っていた。
騒ぎが収まると机の小さな引き出しにそれをしまい、夜ごと取り出してはにおいを嗅いだりライターをカチカチやってみたりした。

ライターに火がつけば父親に会えたような気がしていた。

そんな訳であたしは父親の夢でもあった某有名私立お嬢様学校へ通う身でありながら校内では珍しく小学生から喫煙者だ。

20年前、当時新米教師として赴任した父親はこの学校の生徒であった母親と出会った。

母の母校であり、父の初めての赴任校であり、二人の出会った場所であり、そこにあたしを通わせることは二人の夢だったのだ。


勿論、あの日父親の手から落ちたタバコには手をつけていない。
それは3本のタバコが残り、握りしめられたぐちゃぐちゃのままずっと引き出しにしまってある。

ただ父親と同じ物が吸ってみたくて近所の自動販売機で買ってみたのが始まりだった。


屋上で一本出し火をつける。

マッチの擦ったにおいとタバコの煙が冬空にのぼって消えてゆく。

下の方では馬鹿騒ぎ。

元々お祭り騒ぎは好きじゃない。

階段から突然駆け上がる足音、なんとなく身構える。

ドアを開けて飛び出したのは花村先生だった。

逆光に目を細める。

「あぁ、なんだ...三石か...」

校内の女の子達までか客で来た花村先生目当ての女の子達にまで写真を撮られ追い掛け回されなんとか撒いて逃げて来たのだと言いながら先生もタバコに火をつける。

璃子がヤバイ、と言っていた花村のホスト姿は違う意味であたしにはヤバく見えた。

お疲れだね、と愛想笑いを浮かべ飲みかけのコーヒー牛乳を差し出す。
花村は思い切りそれを吸い込んでふぁっと一息溜息をつく。

「しかしあれだな、女の子ってやつは、」

「いまさら」

「そうだな」

花村はあたしにつられて少し笑い、柵にもたれ煙が空へ昇っていくのを見上げる。

しばらくそうしてタバコをくゆらせながら柵にもたれていた。

「先生、あれが何なのか、聞いてもいいか?」

二人の視線の先にはグランドの向こうにある灰色の小屋。

「あぁ、あれは...三石、悪い、あれだけは言えないんだ...」

「そう」

「だけど、お前に知る権利が無いとは言ってない」

「そう」

花村の携帯が鳴る。
電話の向こうで女の子達が騒いでいる声が聞こえる。
「はいはい、戻ります、戻ります」
花村の情けない声。

電話を無理矢理切ると、こちらに向き直りじゃ、そういうことだから、とドアに向かう。

三石も程々にしておけよ、と言い残し。

ドアが閉められ、女の子達の声の渦の中に揉まれていくであろう花村の後ろ姿を思う。

パッケージに残り1本になったタバコを取り出し火をつける。

「お前に知る権利が無いとは言ってない」と花村は言った。

カラのパッケージを握り潰し、遠くに霞む灰色の小屋を睨む。

知る権利、

この時あたしは決心をほとんど決めてしまっていた。

それがどんな悲劇の始まりなのかも知らずに。


(続く)