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古典科学と先端科学の相克

2009-04-19 11:36:20 | 雑感
ポアンカレ予想の記事の続きです。

前回の最後で「ポアンカレ予想が解決した」と書きましたが、その証明を与えたのはグリゴリー・ペレリマン。その人の研究対象はなんと、前々回の記事で、「トポロジーの登場で古臭い分野」に格下げされたと紹介したあの微分幾何学。さらに、その証明には物理学の手法が用いられていました。ペレリマンはトポロジーの問題を微分幾何学の観点から捉え、その方法として物理学の考え方を援用したのです。

元々トポロジーは「コーヒーカップをドーナツ型に変形する」ような変形操作を扱っている学問なんですが、その過程では当然、元の形を「膨らませたりしぼませたり」するわけです。その「膨らませたりしぼませたり」する過程を微分幾何学でキッチリ追おうとすると、現実世界と同様、「熱」だとか「エネルギー」だとか「エントロピー」といった物理学の考え方が必要になったわけです。もう少し言うと、「リッチフロー方程式」という熱伝導を記述する偏微分方程式(金融工学に詳しい方ならブラック・ショールズ方程式に近い、と言えばわかりやすいでしょうか)に、「手術」と呼ぶ特異点を消す新たな手法を付け加え、トポロジーを記述したのです。

このポアンカレ予想というトポロジーの問題を、当然ですがほとんどの数学者がトポロジーを使って解こうとしたのに対し、ペレリマンは微分幾何学と物理学の手法を使って解いてみせたわけです。そのため、解の説明を求められたペレリマンの解説を聞いた数学者達は、
「まず、ポアンカレ予想を解かれた事に落胆し、それがトポロジーではなく微分幾何学を使って解かれた事に落胆し、そして、その解の解説が全く理解できない事に落胆した」
と言う塩梅。トポロジストの夢が、格下の門外漢によって達成された、という感じでしょうか。

・・・と言いますか、2次元の多様体では3種類の幾何構造に分解できることを微分幾何学の手法で証明したのがポアンカレでした。そして3次元の多様体は8種類の幾何構造に分解できることを証明するのは、やはり微分幾何学の仕事、と考えれば自然な流れなんですよね。解決への道筋は、実はポアンカレ本人が示していた、というオチ。

かくしてトポロジーの登場によってアナクロの烙印を捺された微分幾何学や、そもそも「数学応用の一分野」と揶揄されてきた物理学が、トポロジー誕生からずっと残されていた大問題を解決しちゃったわけです。こんな事態、文字通り誰も想像できなかった。


P.S.
ひょんなことから数学のお話書くことになったんですが、やってみると意外と面白かったです。次もやってみようかな?

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