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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

恥ずべきことは恥ずべきこと

2014-08-06 14:28:10 | 社会評論
 今日はヒロシマへ原爆が投下された日である。
 それについては多くの人が触れていて、安倍首相ですら「平和主義者」を演じているのだから、あえて触れない。

 「朝日新聞」がここ二、三回、連続して「従軍慰安婦」に関する過去の報道の点検と、それに関連した状況についての特集を行っている。
 この特集は、「河野談話」を読んだこともないのにそれを批判する人たちも多いなか、この問題のおさらいとしても役立つが、一方、この問題自体が「朝日」の捏造であるというネット上などでの批判に対する「朝日」の対応や弁明を含んでいる。

 とりわけ、強制連行の有無についての言及に焦点がしぼられているようで、「朝日」自体が過去の報道を検証するなかで、一部に誤報があったことを認めている。
 それは、1982年9月に報じられた吉田清治というひとの、自分自身が済州島で200人の朝鮮女性を「狩り出した」という講演内容を記事にしたもので、さらにその後、後追い記事を何回かにわたって掲載したのだが、済州島現地での検証などでそれが全くの虚言であったことが立証されたというものだ。

          

 しかしこの報道は、「朝日」のみのものではなく、「毎日」も、そしてその後「朝日」捏造説に加担するかのような「産経」や「読売」も当時はちゃんと報道しているのである。とりわけ「産経」は、吉田氏を紹介する記事で、「韓国・済州島で約千人以上の女性を従軍慰安婦に連行した」と報じている。

 さて、「朝日」捏造説だが、この誤報の発端を生み出したという点で「朝日」の責任は重大だといえるが、その点を捉え、鬼の首でもとったかのように言い立てて従軍慰安婦問題そのものを「なかった」かのように葬り去ろうとしている人たちがいる。
 そうした立場はさらに、従軍慰安婦という事実がたとえあったとしても、それは当時としてはあたりまえのことであり、またどこの国でもやっていたことだと居直るに至っている。

 たしかに済州島の件が吉田という虚言癖のある人に端を発する誤報であったことは事実であるが、だからといって、さまざまな形での強制性があったことが全て否定されたわけではない。
 そして、従軍慰安婦という制度が、日本軍の積極的な、したがって当時の日本政府の容認のもとに存在したことは紛れもない事実なのである。

 この件に関して、小熊英二氏は8月6日付朝日の同特集のなかで、「ガラパゴス的論議からの脱却を」と題して「軍人や役人が直接に女性を連行したか否かだけを論点にし、それがなければ日本には責任がないと主張する」人たちを批判している。小熊氏がいうごとく、「そんな論点は日本以外では問題にされていない」のであり、「見苦しい言い訳にしか映らない」ことは確かである。

          

 小熊氏の主張は、「まずガラパゴス的な弁明はあきらめ、前述した変化(=情報化とグローバル化は、民主化や人権意識向上の基盤となった)を踏まえることだ」とし、その上にたっての「情報公開、自国民への説明、国際的な共同行動」を提案している。
 ようするに密室での外交上の駆け引きではない、すべての情報の公開と共同行動の提案である。

 具体的には、「日本・韓国・中国・米国の首脳が一緒に、南京、パールハーバー、広島、ナヌムの家(ソウル郊外にある元慰安婦が共同で暮らす施設)を訪れる。そしてそれぞれの生存者の前で悲劇を繰り返さないことを宣言する」ことを提起している。

 その実現の可能性はともかく、そうした開かれた態度でこの問題に接することなく、「ガラパゴス的な弁明」に終始しているこの国の為政者たちの姿勢をみる限り、解決への道は遠いように思うし、被害者を出した朝鮮半島やオーストラリアのみならず、国際的な信頼も得られないだろうと思う。

 戦場に女性集団を帯同し、性行為の対象にすることはどんな屁理屈をつけようが今日から見れば恥ずべきことなのであり、そのおおもとを直視しない態度は恥の上塗りというべきだろう。

 恥ずべきことは恥ずべきこと、この単純な事実から逃れてはならないと思う。


【追記】私自身、復員してきた兵士から以下のような話を直接聞いている。
 それによれば、「これが本日の突撃用の兜だ」だと上官からコンドームを支給され慰安所の前に並んで順番を待ったというのだ。待ちくたびれた兵士からは、「お~い、早く済ませろ!」という野次もとんだという。
 この場合のコンドームは、女性を妊娠させないためではなく、兵士たちを性病から守るためのものだった。
 

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4 コメント

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人間侮辱としての問題 (只今)
2014-08-07 16:48:25
 慰安婦の「給金はよかった」という記事をみかけました。
 給金がよかったかどうかでなく、全女性に対する辱めの問題としてとらえたいと思います。

 敗戦前年の四月、国民学校四年生になった私たちは、朝鮮人長屋の前に並びました。そして家に一番近い所に立つ者が一番勇気あるものとされる「遊び」に興じました。
 私たちは次のように一斉に絶叫する。
 「チョウセン クサイクサイ 出てこいチョウセン」
 すると、白髪のおじいさんが飛び出してきて泣きそうな表情で叫ぶ。
 「チョウセンチョウセンパカニシテ 
  オナジママクテ トコチガウ」

 大人は言いました。「食べられるだいいではないか」
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証拠隠滅 (made in japan)
2014-08-08 12:17:51
強制連行を証明する資料がない、といつでも同じ言葉をくり返していますが、
そりゃ、燃やしちゃったからでしょう。
そんな単純なこと、わかりそうなもんですがね。
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Unknown (六文錢)
2014-08-08 13:52:27
>只今さん
 慰安婦の給金が良かったというのはまったくの嘘です。彼女たちはたいてい数千円という当時としては高額な前借り(しかも高金利付き)を背負ってその返済のために必死でした。
 例えば、一日に何人かの相手をして働いて月200~300円の稼ぎがあっても、そこから前借りの返済、食費や諸経費の徴収などがあり、手元へ残ったものはわずかでした。
 当時のそうした状況を実証的に検証した資料があったのですが、今手元に見当たりません。

 それから、子供の頃の差別行為ですが、私は只今さんより少し年少だったのと、周囲に在日のひとがいなかったこともあって、直接そうした行為に及んだことはありません。
 ただし、周辺ではそうした差別の言葉が飛び交っていましたから、私自身も幼心に日本民族は優秀で、彼らはそれに比べれば劣るのだと思っていました。
 その誤りに気づいたのは後年でした。
 
 しかし、今のヘイトスピーチは彼らの存在そのものを抹殺しようとするのですからいっそう悪質ですね。
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Unknown (六文錢)
2014-08-08 13:59:25
>made in japanさん
 占領軍が来る前にそうした資料を焼却処分したという証言はありますね。
 この焼却処分は、慰安婦関係だけではなく、あらゆる軍事や行政分野にわたって、不都合な文書を始末するために実施されたため、敗戦直後の霞ヶ関近辺は紙の焼ける匂いと煙とですごかったようです。
 なお、強制連行を否定する人たちは、軍や政府が関与しなかったから責任はないという論理を構築していますが、その有無にかかわらず、従軍慰安婦という制度自身が野蛮なものであったことは世界の常識です。
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