日本電産株式会社http://www.nidec.com/ja-JP/の代表取締役社長の永守重信氏は、一代で日本電産をコンピュータのHDDを駆動させるスピンドルモーターの製造にかけては世界シェア70%を誇る巨大企業に育てあげた。常に前向きで積極的な考え方を説く、突出した独自の経営哲学の持ち主としても知られる。1944年京都府生まれ。
職業訓練大学校を卒業した永守重信氏は、1973年に日本電産株式会社を設立した。氏は海外に活路を求め,単身アメリカに渡り、大口取引先を開拓した。アメリカに続いてアジア、ヨーロッパへも販路を広げた。
永守氏は、また経営再建の名手としても知られる。不振にあえぐ企業20社以上の再建を手掛け、それらすべての再生を果たしている。
◆モラルは「押しっける」のではなく、なぜ必要かを説明しておく
わが社が新しく取り引きを開始することになった会社があれば、扱いの量や規模に関係なく、わたし自身が相手先を訪問して必ずチェックしているポイントがある。
一つは、従業員の出勤時間。ちょっとした会社なら守衛室か、工場の入口近くにタイムレコーダーがあるので、簡単に理由を説明してタイムカードを見せてもらう。それで、欠勤や遅刻が目立つようなら取り引き中止を担当者に告げる。
もう一つは、事務所や工場内、敷地内の整理、整頓、掃除が行き届いているかどうかだ。建物が大きいとか小さいとか、新しいとか古いとか、設備が立派か貧弱かというのはまったく関係がない。見た目に汚れがなくても、案内された応接室の灰皿の吸い殻がそのままになっていたり、窓ガラスが三カ月も半年も磨かれた様子がないようであればアウトである。
理由は、出勤率と六S (整理・整頓・清潔・清掃・躾・作法) が、その会社の従業員のモラルの高さを示すバロメーターであり、ひいては経営者のモラルのレベルを端的にあらわしていると考えるからだ。
たとえば出勤率。従業員がよく休むのは、病気や家庭の事情という止むを得ないものを除くと、会社への不平・不満があることに起因する。これは、遅刻が増える、たまに休むといった初期症状のうちに、上司が話し合いの場を設けるなど適切な手を打てば、問題もスムーズに解決しやすい。
ところが、部下が休もうが遅刻をしょうが、上司が放っておくからそのうちに辞めてしまう。これなどは上司、経営者のモラルが低い証拠である。整理・整頓・清掃も同じで、不充分なら「やれ」と指示しなくてはいけない。
わたしは、機会があるたびに社員の前でこうした話をする。いや、しておくのだ。他社の例をあげて「こんな会社と取り引きをしたら、とんでもない部品を納めてくる」とやんわりと布石を打っておくのである。そして、わが社の社員が同じことをやると、「わが社もあの会社と同じで、商品を買ってくれるところがなくなってしまう」と注意を促す。
つまり、単に「休むな」「遅刻をするな」「整理・整頓をしろ」というだけでは、なかなか相手には通じない。なぜ、休んだり、遅刻をするのがよくないのか。整理・整頓・清掃が行き届いていなければ、どういう結果を招くのか。このあたりは、そのときになって話をするのではなく、普段からきちんと説明しておく必要がある。このような布石とその場その場での注意と喚起。この二つのバランスがとれてはじめて、部下は上司からいわれなくても自ら行動を起こすようになるのである。
* 『 「人を動かす人」になれ!―すぐやる、必ずやる、出来るまでやる 』 永守重信 三笠書房
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